『地獄少女』ロシア語吹替え版(といっても,日本語にかぶせてナレーターがロシア語で通訳するような形態なのだけど)をロシアのアニメサイトで観た。ロシア語タイトルは "Адская девочка" あるいは "Девочка из Ада" であった。今日は『地獄少女』のロシア語ネタ。
「恨み,聞き届けたり」という古風な台詞は,"Месть будет исполнена(復讐は果たされることになる)" と訳されていた。文法的に原語の完了形ではなく未来時制なのが面白い。要するに,日本語の意味する復讐の契約が成立したことではなく,確実に恨みが晴らされることに主眼がある翻訳になっていて,ロシア人の単刀直入な国民性がこういうところにも現われているのである。「先生」,「先輩」という呼びかけが日本語のままで使われていた。日本アニメ浸透の様子が窺われて興味深かった。日本語の「ケバい」を "вызывающе" と,きくりのようなおチビちゃんな女の子のことを "малявка" と言うようだ。
閻魔あい定番のあの地獄落としの台詞と,その吹替えでのロシア語テクストをあげておく。ロシア語訳も,弱強格韻律で書かれ,かつ тьмой - тобой,смрада - ада という具合に脚韻を踏んでおり,日本語の七五調文語を移植したらしく,詩的テクストになっている。こんなのを暗唱してロシア語に親しむというのは,縁起が悪いのでやめたほうがよい。罰が当たっても知りません。
闇に惑いし哀れな影よ | О жалкий дух, ты породнился с тьмой, |
人を傷つけ貶めて | Жестоко жизнь других отравлена тобой |
罪に溺れし業の魂 | Душа твоя полна грехов и смрада... |
一遍,死んでみる? | Падешь на веки ты в глубины ада! |
ちなみに「人を呪わば穴二つ」は,"Мстишь — копаешь сразу две могилы..." (恨みはいちどに二つの墓を穿つ)と訳されていた。手元にある『ロシア語ことわざ集』では,この日本の諺は "Не рой яму другому, сам в нее попадаешь (упадешь)."(他人に対して穴を掘るなかれ,自らがそれに落ち込むことになる)というロシア語になっていた(『日英仏対照 ロシア語ことわざ集』吉岡正敞編著,駿河台出版社,1986 年,87 頁)。穴に自分が落ちるというよりも,"Адская девочка" の言のほうが怖い。
あなたの恨み,晴らします。Мы отомстим за вас.
kunihiko_ouchi
こんばんは。
>といっても,日本語にかぶせてナレーターがロシア語で通訳するような形態なのだけど
ポーランドでは外国のドラマやアニメは一人の弁士が登場人物全員の声を担当して吹き替えをしている(Lector「朗読」というらしい)そうです。スラブ圏の伝統なんでしょうか。。。
ISAO
kunihiko_ouchi 様,こんばんは。
Lector ですか。確かに,ロシアの映画で外国語が出て来ると,突然,神の声のように
通訳者の声がしゃしゃり出て来て,違和感を覚えたものです。
『地獄少女』吹替えも同じ感じですが,それこそ幇間のようにずっとひとりで
しゃべり続けているので,ちょっと気の毒になりました。