産総研のロボット HRP-4C

今日はお休み。齋藤環『戦闘美少女の精神分析』を読んでいる。ここのところ,『NEON GENESIS EVANGELION 新世紀エヴァンゲリオン』や『Меланхолия Харухи Судзумии 涼宮ハルヒの憂鬱(ロシア語版)』といったアニメの傑作を観て,オタク文化というものに少し興味をそそられているのである。「戦闘美少女」に絡んでネットのニュースを見ていたら,産総研が開発したロボット HRP-4C の記事が眼に留まった(『人間に近い外観と動作性能を備えたロボットの開発に成功』産業技術総合研究所 2009.3.16 付)。

このロボットは二足歩行する人間型タイプのヒューマノイドとして,あっと驚かせるものがある。「人間に近い動作や音声認識にもとづく応答を実現」する点が特長とのこと。しかし,ロボットとしてここまで人間,しかも若い女性のリアリティにこだわる必要があるのかという疑問が起こる。もちろん,人間的所作のメカニカルな追究が高度な技術革新を惹起するのだ。それにしても,女性的なものへのその独特のこだわりは私には常規を逸しているように思われた。セクハラとまでは言わないけど(開発者が仮に「肌が白いので『ユキ』と名付けました」などと悪ノリした説明をしていたら,私はセクハラだと思ったかも知れない)。

彼女(HRP-4C のこと)はうまいタイミングで瞬きをし,いわくありげに首を傾げて後ろ下方を見返りする。身長 158cm,体重 58kg — 女性としては重いが,これは生身の女性が鎧兜(というより,エヴァのような戦闘ロボットに搭乗するための超合金スーツ)を纏ったと思えば自然である。あどけない容貌。荻野目慶子に似ているとの意見をネットで読んだ。私は菅野美穂に似ていると思う。こんなことどうでもよいが,それくらい自己の経験を投入できる顔つきの自然な仕上がり。その顔にそぐわない,大きな形のよいバスト。残念ながら,スリーサイズは明らかにされていない。そう,HRP-4C は明らかにロリ趣味なんである。

このように,ロボットとしては不必要な,しかし高度な技術を要するディティールが,一種独特のセクシュアリティを発散して HRP-4C に付加されているわけである。彼女を見たひとたちがどのような印象を覚えたのか,ちょっとググってみた。こういうとき,ブログの意見は表裏がないので参考になる。想像どおりというか,いちいち出所をあげませんが,「ツンデレ」,「ドリ系」,「(顔,髪型の)オタ偏差値低い」,「すごい,一目見て抜けると思った」など,オタク的視線からのものが多い。「ちょっと怖い」というのが一般的な受け止め方と思う。海外でも「このロボットとファックできるのか」というのが非常に多かった。一方で,海外の意見には「ターミネーターの始まり」,「日本人はこいつらに戦争させようとしているんだ」といった軍事的関心の多いのが特徴である。海外の意見はここここをご覧あれ。

私も HRP-4C は研究者の秘かなオタク的情熱に動機付けられていると認める。彼女にはじつは本当に膣が実装されているかも知れない。しかし,その情熱には海外の反応にあるような軍事的ニュアンスは —「戦闘美少女」のセクシュアリティは否定できないが — ない。私がこのロボットに注目したのは,日本のオタク的衝動 — 究極の想像力を実世界でパロディー的に実体化しようとする趣向 — が恐るべき技術革新を支えている,そういう一端を見た気がしたからである。ただし,これは「想像したことを現実世界でもやりたい」という子供じみた欲求とは,紙一重にしてどえらい違いがあることを強調しておく。

彼女はファッションショーの挨拶で「実戦」デビューしたそうである。日本のオタク精神は平和そのものなのだ。