皇居周辺のお散歩

今日から竹橋,北の丸公園にある科学技術館で特許フェア。午前中その対応をやって,事務所に戻る途中,国立近代美術館を過ぎたあたりで,ふらふらと誘惑に駆られて皇居の堀沿いを散歩することに。あまり天気はよくなかったが,地下鉄なら三,四十分,歩いても五,六十分,まあちょっとくらい時間をつぶしてもバチは当たらないと思いたち,赤坂一丁目を目指してゴー。首都圏に出て来て二十年,携帯デジカメでパチパチやりながらの,久々のお上りさん気分であった。

平日のお午前,皇居に沿った内堀通りは車の流れこそ忙しないのであるが,人通りは意外に少ない。ときおりジョギングをするひととすれ違う程度である。思えば,東京に出て来て皇居を眺めながらその周りを歩くのははじめてかも知れない。半蔵門の英国大使館付近をぶらついたことがあるが,皇居を感じながらというわけではなかった。入社当時事務所が九段坂上にあったころは千鳥ヶ淵によく足を運んだものだが,これも同様に皇居を意識することはなかった。会社の目の前にあった靖國神社については,花見の場所取りの思い出ばかりである。

平川門 (下写真左) を過ぎ,気象庁を左に見てさらにゆく。大手門 (下写真右)。白鳥が数羽,遊弋していた。これは桜田門外の変以降,彦根と水戸の百年越しの和解の印であるという。門のあたりにはぱらぱらと外国人観光客がいた。

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少しゆくと桔梗門。ここから皇居と反対側に目をやるとちょうど東京駅中央口が見えた (下の左側写真,並木の果てがそれ。小さくてよくわかりませんが)。大手門と対面になっているとの思い込みは勘違いだったのだと納得。灰色の空が垂れ込めていて景気はよろしくない。

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桔梗門から皇居前広場へと続く。あれが二重橋だよ,おっかさん。皇居正門。下の写真ではなにがなんだかさっぱりわかりませんが。ひたすらだだっ広い外苑。ここは映画『動乱』(1981 年) で高倉健扮する二・二六事件の主犯格の青年将校が跪きながら「陛下,皇軍を動かします!」と厳粛に決意を表明したところ。健さんかっこよかったなー (おいおい)。ここは昭和天皇崩御に先立つ日々,記帳の行列で溢れかえったところ。自粛ブーム。正月明けの金曜朝の崩御のニュース。たった七日しかなかった昭和六十四年。まだ寝床にあった部屋ではプロコフィエフのヴァイオリン・ソナタ・ニ長調が鳴っていた。小渕さんの「平成」の額ブチ。いろいろ思い出される。ゆく手に東京タワーが見える。

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桜田門を眺めながら,晴海通り,日比谷通り,内堀通りが合流する交差点を右に折れる。桜田門というと警視庁。永田町といえば政治家,霞ヶ関といえば官僚を示すように地名が組織の象徴になっている界隈に入る。そういえばこの左手・大手町はというとわが国の古い超一流企業郡の象徴である。桜田門は,大老ともあろう政府の要人が過激浪士たちに暗殺された事件・桜田門外の変 (1860 年) でも有名だ。テロに脆弱だったことを示す歴史的逸話と結びつく場所にいま,警察の親分がでんと構えているのはなんとも皮肉である。

ところで横道にそれるが,井伊直弼を手打ちにした水戸浪士たちの幾人かは切腹した。ところでもっと横道にそれるが,泰葉が別れた三遊亭小朝を罵って「あんたなんか切腹しろ,そしたらあたしが介抱してあげる」などとメールしたという。そんな犬も食わないゴシップ記事を今日,美容院の『女性セブン』で読んだと妻が教えてくれた。「これ,『介抱』じゃなくて『介錯』だよね」と妻は大笑いしていた。泰葉がXXなのか,『女性セブン』記者がXXXなのかわかりませんが。

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警視庁舎を過ぎると国会議事堂。六本木通りに折れ,国交省,外務省,金融庁,霞ヶ関ビルなどのいつもの見慣れた風景が現われる。溜池交差点に着いた。

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今回,皇居を半周くらいして思ったのは,やはり日本のエンペラーの居住地だということ。広大な土地に広壮な宮殿を構えた海外の王侯貴族と比べると,皇室の住居は目立ったモニュメンタルな建築物をもたないとの印象が私には強く,このことが日本は地味な,貧乏な国たる本質を表しているのだと思っていたのだった。しかし今回,この狭苦しい東京のど真ん中に堀を巡らした静かな鎮守森のような佇まいに改めて感銘を受けた。どうも権力の強大さや富ではない,別のなにかを見る者に植え付けるというところに。聞くところによると,江戸城の天守閣は十七世紀半ばに江戸の大火で消失して以来,再建されていない。この国の最高権力者たちはなんと慎み深かったのかと感心してしまうではないか。通りに沿って歩きながら,頭を右に巡らせれば皇居の森,左に巡らせれば官庁舎・大企業高層ビルからなる大都会。こんな白日夢のような世界は東京のここでないと味わえない。そこが東京の魔都たるところか。

だいたい一時間に及んだ,仕事の合間の感傷散歩。六,七キロ歩いただろうか。最近運動不足で家族からメタボ・オヤジと責められつつある今日この頃,休みの日にでも,旧吉原や湯島,本郷,小石川など東京の古い町並みを眺めながらウォーキングもよいかもと思ってしまった。このあと飯を食って一時的に帰社し,午后は顧客打合せのため鎌倉に向かった。散歩のコースを Google マップで作ってみた。


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