阿刀田高『コーランを知っていますか』

阿刀田高の『コーランを知っていますか』を知っていますか?

イスラムは最近,イスラム原理主義と結びついたテロリズムのイメージばかりが先行していて,「アッラーフ・アクバル (アッラーは偉大なり)」というと,いままさにこれから自爆テロで殉教しようとする悲壮なイスラム教信者を連想してしまう。でもこれは先入観というものである。日本人と聞いてチョンマゲ,もしくはカミカゼ,ハラキリ以外に何の連想も起こさない外国人とほとんど変わりがない。それに捕われてしまうのも,イスラム教,その文化に対してあまりにも理解が足りないことがその原因だと思う。

本書はその謙虚さ,未知の文化に対する開かれた感受性において類い稀なコーラン入門書である。私は阿刀田高をはじめて読んだのだが,びっくりしてしまった。日本人としての立脚点もしっかりもっている。

旧約聖書がユダヤ王国の建国史,新約聖書がイエス・キリストの伝記であるとすれば,コーランは親父の説教のようだ (p. 35),という素描や,「つまりユダヤとイスラムの争いってのは,正妻と妾腹の子の対立から始まっているのか」(p. 122) といった解釈など,半畳を交えたくだけた解説は楽しい。それでなおかつ対象に対する礼儀を欠いていない。

これでイスラムが理解できたか? 私にはますます謎めいたものとなった。

本書はイスラム教についてなんらかの理解を得たいと思うひとの必読書だと思う。私は本書によって阿刀田高の異文化に対する切り口に感銘を覚え,『旧約聖書を知っていますか』も続けて読んだ。まだまだ彼のエッセイがある。これから楽しみである。