ソルジェニーツィン死去・竹島問題

ソ連の作家アレクサンドル・ソルジェニーツィンが 8 月 3 日に亡くなった。享年 89,自宅で心不全により息を引き取ったということなので,まあ畳の上の大往生といってよいだろう。ソヴィエト体制により 8 年もの間ラーゲリにぶち込まれながらも反体制文学を書き続けた反骨の大作家としては,静かな死である。

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米国政府機関が竹島 (独島) の帰属先を「韓国領」,「主権未指定」などところころ変えて,話題になっている。韓国国民は口角泡を飛ばして怒りまくっていたようである。一方,日本政府は努めて冷静を保とうとしているようである。町村さんが「米国への抗議がなぜ必要なのか」と往なすとおりで,たしかに米国政府が竹島をどう見ていようが,米国は当事者ではないわけで,それ自体で大騒ぎすることはないともいえる (昔,私が学生のころ,あるところで米国が北海道をソヴィエト領として間違った記載をして問題になったことがあったと記憶する。アジアの同盟国への米国の理解はその程度だと思ったものである)。

ところで,米国はこの時期に来てなぜこのような日韓に亀裂を生じさせるような不可解な行動を起こしたのだろうか。竹島領土問題は日韓のデリケートな問題であることを知りながら。米国の対応はブッシュ大統領の訪韓成功を,あるいは牛肉騒動収拾を図った韓国へのおもねりであるとの見方もあるが,これはおそらく違うと思う。米国のような政治大国がそんな及び腰をとるわけがない。要するに日韓両国ともになんでも米国の機嫌を伺うのはそろそろやめなさいということだと思う。「僕はイラクのことで忙しいのだ」ということ。自分たちのことは自分たちでなんとかしなさいとばかりに,東アジアにおいて米国が冷たい態度を意図的にとりつつあるのだと思う。北朝鮮拉致問題への対応と同じではないか。米国にとっては,六カ国協議で議論して中国に取り持ってもらったら?くらいの,おそらくは他人事なのである。これは当然のことである。仮にアリューシャン列島やベーリング海峡の米露国境付近の小さな無人島の帰属をめぐって米露間が争ったとしても,われわれ日本人はどうでもよいことと思うはずである。

しかしながら,これまで日韓両国はかつての反共勢力として米国を奉じる立場でのみ手を組んで来ただけとも考えられる。歴史問題 (ところで,韓国は戦前の日本の侵略行為に対し歴史的反省と謝罪とをしきりに要求して来た。確かに日本はその清算の仕方がドイツと比べて手ヌルいところがないわけではない。けれども韓国だってヴェトナム戦争での蛮行に対してヴェトナム人から反省を強いられても文句の言えない立場にある。戦争とはそういうものなのだと思う) が治癒しそうもないしこりになっている。親分の影が薄くなったら兄弟喧嘩をはじめるしか能がないかも知れない。米国のこんな他人行儀のそぶりを見て,お互いに信頼関係を築かないといけない時期に来ていると思われるのに。領土問題は国家の原理原則がぶつかり合う。殴り合い — 撃ち合いではないゾ — をすることで友情が芽生えるということもあるか? 私自身は韓国人も,中国人も,殴り合いをしたいなどとは思わないくらい好きなのだけど。