昨夜,寝る前,プーシキンの『エヴゲーニイ・オネーギン』について,インターネット時代の日本人による受容の一端を眺めてみようとふと思い,Google で関連ページを検索した。そんななかで,『気まぐれの夏(PC館)— Rozmarné léto』というブログサイトを発見し,『ロシアのスパマーは文学がお好き?』という記事を面白く読ませてもらった。このブログの管理人中村さんに最近ロシアからスパムが来るようになり,なかを覗いてみると,スパム撃退ソフトの解析をすり抜ける手段なのか,『オネーギン』の詩文が鏤められていたとのこと。オレにもこのスパムメール来ないかなーなんて思ってしまった。これはスパムというより新手のインターネット・ジョークではないだろうかと。もちろん,オネーギンが同時代の精神的病いに冒されたのであってみれば,このスパムメールの閲覧もウィルスチェックをしたうえでないと危なくてしようがないけど。
ところで中村さんのこのサイトでもうひとつびっくりしたのが,私のサイトの紹介があったこと。中村さんはチェコ音楽の研究者で,そのプロフィールページにあるお仕事の内容をみるとあの大作曲家レオシュ・ヤナーチェクの専門家だそうである。カレル・チャペックなどの作家の話題があること自体,通による通のための通なブログなんである。なおかつ,チェコ語のほかロシア語やドイツ語にも造詣がおありで,多言語を計算機で取り扱うことにも相当ディープな入れこみ様を窺わせていらっしゃる。私の関心,目指すところとまったく同じであって,私のサイトの記事が知らない間にこういう方に認められていたことが,とても嬉しかった。
私は大学の露文科で学び,一時は研究者を志したころもあったのだけれども,どうトチ狂ったのか — 研究者としての才能もいまひとつであったし,要するに食って行かねばならないわけで — システムエンジニアになってしまった。私は計算機の手習いから実務において大型汎用機と UNIX ワークステーションに育てられたため,いま主流の Windows のトレンドから取り残されてしまい,PC-UNIX のしがらみを抜け切れない。文学や音楽はやはり生活の一部でもあり,そのため文科系研究者になんとか役立ててもらいたい一心で,この十年間 FreeBSD ネタ,ロシア語ネタのサイトを運営してきた。ところが,PC が文科系学徒にとっても欠かせない道具になったいまのこの時代は,もはや Windows 全盛である。要するに私のサイトは,これがターゲットとするユーザにとって,まったくもって役に立たない,まるで日本社会党のような時代遅れ,タチヤーナとオネーギンのようなすれ違いの態をなしている。さらに,PC-UNIX の領域でも,いまは Linux 全盛で,FreeBSD ユーザは片隅で心細く生き延びているようなところがある。世の中,民主党だよ,ネオコンだよ!— 私のサイトはもうお笑いに近い。わずかに LaTeX 関係だけが Windows ユーザと共通する話題である。私のサイトを旧字・旧仮名遣い復古主義サイトだと勘違いしていらっしゃる方もいるようだ。世の中,戦前の強い「美しい日本」に帰るんだよ!(バッカじゃなかろかルンバ...) — 私のサイトはもうまさにお笑いである。
... と思っていたが,中村さんのサイトをみて,少し元気が出てきたところである。私と同じようなヤツもいるんだと (中村さん,ごめんなさい)。『気まぐれの夏(PC館)— Rozmarné léto』に私の足跡,お礼のコメントを残してきてしまった。ええと,『オネーギン』の現代日本のネット市民による受容については,また今度ということで。