いまやネットワークというとインターネット,TCP/IP ブロードバンドが当たり前になってしまった。入社 6 年め,1993 年に担当顧客システムではじめてイエローケーブル 10Base-5 LAN を引いたとき,TCP/IP ネットワークとは,IP アドレスとは,ホスト名とは,ルーティングとは,ソケットプログラミングとは,... なんて講釈をさせられたことが懐かしい。
それまでは SDI 高速ディジタル回線 + ITU-T X.25,X.29 公衆無手順端末 (パソコン通信端末) や,もしくは ISDN OSI インタフェースでコンピュータネットワークサービスを行うのが主流であった。ITU-T (CCITT: Comité Consultatif International Télégraphique et Téléphonique) とはフランスに本部のあった国際通信規格勧告団体である。米国のグローバリズムに蹴散らされたいまや,ITU-T の名を耳にすることが希になり,通信規格も米国 IEEE 一辺倒になっている。
私は当時 ITU-T サイドのネットワークプロフェショナルだったので,当顧客のための TCP/IP ネットワーク設計ははじめての経験であって,顧客へのご説明も冷や汗をかきながらの大童だったのである。このネットワークシステムが稼働して,特許電子公報 CD-ROM データを UNIX ワークステーションから ftp によって 30 分でメインフレームにアップロードできたときは,通信の新しい時代の到来を実感したものである。X.25 なら一昼夜かかっていたに違いない。
昨日,隣の部署の若い SE が大型メインフレームの CCP (通信制御処理装置) の回線接続にモデムが必要かどうかで工場とやりとりしていた。真面目な彼は「通信管理のマニュアルにはそんなことは書いてませんよ」と文句をいっていた。もはやいまの SE にとっては TCP/IP が常識になり,X プロトコルはまるで古代の遺物のようである。メインフレームのレガシーの世界では細々と X.25 が残存している。ついついツッコミを入れてしまった。「君ねえ,ノート PC に RJ-45 ジャックがあるからといって,LAN ボードを内蔵していないと通信できないだろ。それと同じで,モデムがないと動かないに決まっているじゃないか!」。と同時に,私も歳をとったと呆れ返ってしまった。