品質報告と『彼らは何を掴んだのか』

システムの品質報告のため,原宿の顧客先に赴く。地下鉄明治神宮前駅舎を出た瞬間に,地面から3センチくらい浮き上がったけばけばしい若者たちの洪水に巻き込まれ,ネクタイを締めたわれわれサラリーマン四人組は完全アウェイの怪しい気分で顧客旧本社ビルへ。絶対優位のお客様に正論で攻めまくられ,もとより不良を出したわれわれが悪い図は明らかで,私はひたすらお詫びするばかりで胃が痛くなった。とはいえ,カツ丼の料金で,フランス料理のコースの品質と,気品と,伝統とを追及するような顧客管理職の議論に,ふと,吉田兼好の言が頭をよぎって,実は吹き出しそうになる。「改めて益なき事は,改めぬをよしとするなり」。おっと不謹慎。お客様は王様です。

打合せが終わると18時を過ぎていた。報告資料のレビューと修正とでドタバタしたおかげで午もなしにすませたので,メシを食うかとも思い,地下鉄で神保町に出る。

地下鉄のなかでスポーツ雑誌 Number の吊広告が目に留る。サッカー日本代表中澤選手の悲壮な姿に『彼らは何を掴んだか』のコピー。これを書いた奴に胸糞が悪くなる。「彼らは」という言葉に芯から怒りが込み上げてくる。負けたら他人事にしてしまう,冷たい,無責任なライターの手になるものに違いない(記事本文を読んだわけではないけれど)。もし日本代表がアジア杯を制覇していたら,「われわれは」という我が物顔の表現になったのではないかと想像してしまったのだ。こういう評論家的な日和見が正論を吐いて代表を苦しめているのである。これではあまりにも選手たちが可哀想ではないか。いっそ私は日本代表が永遠にトップになれないことを切に望む。

神保町裏通りの食堂で焼肉定食を食い,ブラームスとメンデルスゾーンの中古 CD を買い,いつもの喫茶店で苦いコーヒーを飲んだ。帰途,半蔵門線神保町駅のホームに新聞を読む少年がいた。後生畏るべし。路線図のボードに火災発生時の説明が掲載されていた。英語,中国語,韓国語では示されているのに,日本語がない。何故か。

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帰宅してニュースを見る。中国瀋陽での U-22 サッカー日本対中国戦。0-0 のドロー。国際試合なのに審判が中国人だったようだ。日本人観客に紙コップを投げつけて罵声を浴びせる中国のサポーター。こんな国で 2008 年にオリンピックが開催されるそうである。歳をとるとゲームの勝敗よりこういうことのほうに関心が高まる。ここでもサッカーが国を挙げたスポーツであることを思い知る。日本国の勝ち(平均点での話)。