DANTE の »Die TeXnische Komödie«

福岡大学永田先生のブログは,私の Web 巡回サイトのひとつになっている。LaTeX という計算機技術の向こうに文化を見る眼差しや,ときおり出てくるジョークなど,お人柄が偲ばれて大好きなのである。

八月十七日の記事『箴曲 -- ドイツ語 vs. 英語』に,ドイツ LaTeX ユーザーズグループ季刊誌 »Die TeXnische Komödie« の話題が書かれていた。この雑誌の付録に英語表記のステッカーがついていたのに対して,「なぜドイツ語じゃないの?」と読者のクレームがついたという。編集者からの回答は,ドイツ語だけじゃ重たいとのこと。日本の雑誌が同じようなステッカーを作ると,やはり英語になるだろう。日本語では「重い」というのとは少し理由が変わってくるかとは思うが,ドイツ人にも似たような感覚があるのだなと興味深かった。

それにしても,ドイツのこのグループは DANTE という。そう,かの大詩人ダンテの名前を戴いているわけで,季刊誌名も『神曲』のもじりである。LaTeX 専門の雑誌が成り立っているところも凄いけれども,こういう古典的文化の香り高い趣味になると,日本人には — 理科と文科とでタイプを分けたがるためか — 絶対に真似ができない。ソフトウェアの名前も文学や古典に由来するひねりのきいたものが少なくない。Windows “NT” は New Testament 『新約聖書』を企図しているし,SUN の “Solaris” もタルコフスキイの映画から採られたんだろうと思う。

昔,ロシア語で Web ページを書いて公開したところ,『ПУШКИН プーシキン』という名のロシアのエロ・サイトからスパムメールがくるようになった。プーシキンのドンファンぶりはその筋では有名なので,大詩人はこんなところにも名を残しているのかとちょっと感銘を覚え,このエロなサイトに見入ってしまったことがある。西洋人は,エロにせよ,まじめにせよ,趣味にせよ,なにか一本通底する連続線があるようだ。