ナウカが倒産したという。ロシア・東欧の学術書,文芸書の輸入・販売をはじめ,徳永晴美の『ロシア語通訳コミュニケーション教本--会話からスピーチ・交渉へ』などの有用なロシア語書籍の出版も行っていた。『プーシキン語彙辞典』や『ダーリ辞典』などもう入手できない貴重なロシア語文献をリプリントで出版したり,日本のロシア関連研究者にとってなくてはならない存在だった。
ロシアは 1990 年代に社会主義の崩壊,強烈なインフレ,ルーブル切り上げなど激動の経済状況を迎え,一方で日本のバブル崩壊後の不況と重なり,ナウカは深刻な財務問題に呑みこまれ,それが回復できないままに倒産という事態に至ったのであろうことは想像に難くない。最近ではインターネット販売の普及で,専門的輸入業者に頼る必要性も失われた。数年前,神保町の本店が移転したとき,なにか嫌な予感があった。
私は大学院生のころナウカには世話になった。毎月新入荷の新刊書や古書の案内を研究室に持ってきてくれた。本代のツケがきいたりもしたのだ。なんとも残念である。先輩がひとり入社したのだけど,どうしているか心配である。それにしてもユーザと密に付き合うタイプの本屋さんがなくなるのは,現代の人間味のない商売の世界を象徴しているようで,寂しい。