ジダンの頭突き

7 月 9 日のワールドカップ決勝戦はジダンの頭突きで白けた終焉となった。その後テレビや新聞で何回もあのシーンを見せつけられうんざりしたひとも多いのではないだろうか。妻はけんかするときも手を使わないところが凄いわねと冗談をいう。昨日だか一昨日だか,FIFA の制裁処分が決定したそうな。

己の行為についてのジダンの釈明は,しかしながらこのどっちらけを吹き飛ばすくらい,印象的だった。「全世界の,なにが正しいのかを子供に教え諭す親と,子供たちとに謝りたい」。こんな謝り方ができるのはさすが,凄い。成熟したヨーロッパの選手たちは,スポーツマンであるまえに大人なのである。子供たちの導きの星であることの壮絶な自覚。「かっこいい」と思うのはこういう人間性をみせつけられたときである。日本の選手ならどういうのだろうと考えてしまった。「応援してくれるファンに申しわけない」がせいぜいだろう。いまの日本選手が欧州の彼らに敵うはずは,絶対にない。

決勝戦はつまらなかった。もちろん守備の硬いサッカーは地味である一方,目利きをうならせるものなんだろうけれど,私のような素人がみると,アルゼンチンともブラジルとも対戦しなかったチームがなぜに優勝できるのかピンとこなかった。マテラッツイの暴言は経験豊かなチームによくある知能的戦術のひとつにすぎないのかもしれないけど,ワールドカップという国際イベントでは,やっぱり肩を持つ気にはならない。ベンゲル氏がなにかの番組で,「イタリアは勝利を盗んだ」とブラックな批評をしていた。これまた成熟した眼差しに支えられた至言だと思う。