30階の羽虫

トラブルプロジェクトの引き際に思わぬ作業に悩まされている。作業工数やら,手順書やら,今後の残作業スケジュールやら,懸案事項のメンテナンスやら,火を消すのにかかずらって手を抜いていた部分が,次に仕事を引き取るひとの身になって考えてみると,まさにこのトラブルプロジェクトの火種を見せつけられるようで,なんとしてもきちんと整理しておかなくちゃと,ここ二三日,顧客対応が終わったあとで引継ぎ資料作成を強いられており,ひとに仕事をさせることの自分でする以上の難しさにいまさらながらに直面しているのだ。二月最後の週に引き受けたこの仕事の始動時期同様,徹夜で残課題の整理をして黄金週間を迎えることになってしまった。

今日29日徹夜明けの朝,椅子に突っ伏して一眠りしてぼっとした意識のうちにビルの30階のリフレッシュルームに行った。天気が悪く眺めもいまひとつだった。ガラス窓のすぐ外側を足の長い大きな羽虫が十匹ほど飛び交っているのに気づいた。なんという名前の虫か。虫編にむずかしい旁をあてるのに違いない。百メートルに達する上空を群れをなして飛び交っている奇怪な羽虫。ふと海底深く棲息する深海魚の姿に覚える驚きに似た怪しい感慨に襲われた。こんなところになにしにきているんだ?

席に戻って,アプリケーションの性能対策に関する作業報告のメールを顧客担当者に宛てて書き送った。まだ顧客には私がプロジェクトを離れることを伝えていない。プロジェクトマネージャからそれはなされるべきであるが,まだみたいである。どうすんのよ!