財布を落とす

九月十八日,月曜日,敬老の日。玄鳥去ル白露末候。台風一過の晴れた空のもと,家内と川崎駅周辺に買い物。書斎のハブのポートが足りなくなったので,Gigabit 1000Base 8 ポートハブ,カテゴリー 6 の LAN ケーブル 3 本を購入。そのあと,幸区南幸町にある Billy The Kid という,アメリカン・カントリー風のステーキハウスで食事。400g のじゅうじゅう焼いたステーキを食って腹一杯。ステーキは,和牛の繊細さの対極にあるかのような,ぶっきらぼうなアメリカンが俺の好みである。

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いつものように,5km の道のりを妻と自宅まで歩く。途中,ファミリーマートでアイスクリームを買い食いして店を出た瞬間,財布がないことに気づく。俺はいつもはスーツの内ポケットに財布,通勤定期券を収納しているので,落とす心配はあまりないのだが,この日は普段着で財布をチノパンの浅い尻ポケットに入れていた。やっちまった。金はそれほど入っていないが,キャシュカード,クレジットカード,健康保険証,病院の診察券,エトセトラのことで途方に暮れる。ステーキで腹一杯になって,注意が散漫になったか。すぐ,ファミリーマートに戻り店員に問い合わせるも,わからないとのこと。ステーキ屋でやらかしたか。iPhone で検索して店の電話番号を突き止め,電話をかけてみる。配膳をしていたと思しき女性店員が電話に出た。食事をした時刻とテーブルを伝えると,数秒後「ありましたよ。預かっておきますね」。ホッとした。翌日伺いますと約束。

火曜日の今日,仕事を定時で切り上げて,Billy The Kid に赴く。昨日の女性店員は俺を見かけると,すぐにわかったようで,満面の笑みとともに財布を渡してくれた。この笑顔には,客と店員の関係から逸脱した,なにかこう,懐かしさのようなものがあった。「どうもありがとうございます。助かりました」と礼を述べる。彼女はそういう俺をカウンターに案内してくれた。日本語に訛りがあり,どうも中国人か韓国人のようである。今日は 225g のハラミステーキを注文。

俺はこれまで財布,預金通帳・ハンコ入りカバン,ないし金の入ったポーチを 5 回置き忘れ,5 回とも返ってきた。大阪の天王寺で封筒に入った 4 万円を拾って警察に届けたことが一度あるが,拾ったのはこのたった 1 回しかない。悪運が強いといえばそれまでだが,やはり世の中の善意に救われたというのが正しい見方だろう。自分の不注意で招いた事態が世の中の善意で事なきを得たそのことで ー 結果的には何もなかったのと変わらないわけだが ー ちょっといいことに遭遇した気分になった。iPhone でいまの気分にピッタリの吉松隆を聴きながら,やはり歩いて帰った。