櫻始開・春分次侯

年度末,納品の時期。ひとりで弊社製品工場の技術者を仕切るのがいまの仕事で,部下がおらず,自ら納品物の整理をし,CD-R に焼き,弊社のロゴ付き納品ラベルを貼付し,と十ウン年ぶりの手作業であった。三千五百万円也の半年作業の成果物も CD-R たった一枚。営業に確認させてから顧客に提出した。そのあとエレベータのなかで大きく伸びを打つと,今日は仕事をする気も半ば失せてしまった。

渋谷・道玄坂を歩く。櫻始開(さくらはじめてひらく)春分次侯,暖かい日差しに冷たい微風の快い日和だった。空が澄み切って蒼い。渋谷マークシティ裏手入り口通路そばにある,与謝野晶子の歌碑の桜も咲き誇るばかりになった。母遠うて瞳したしき西の山 さがみか知らず雨雲かかる。今日の澄んだ陽気は,この暗い望郷の歌にそぐわない。

* * *

朝日新聞に,中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に,英独仏に続き韓国が参加を表明した,とのニュースが出ていた。米国の圧力で,日本は中国からのお誘いに対して「ガバナンスの透明性が」どうのこうのと理由を付けて渋い顔をしている。米国の属国たるわが国らしい態度である。金持ち喧嘩せず。経産省が金儲けの臭いを嗅ぎ付けているんなら,四の五の言わずに参加すりゃいいのに,とオレなんかは思う。どうなんだろう,抜け駆け韓国は,日米両国から経済的イヤガラセを受けそうである。

[ 4/10 付記 ] ま,日本は ADB に注力するのがよい。「中国主導」というだけで,AIIB では信用のおけない融資(舞台ウラが汚職でドロドロ)がまかり通ることが想像できる。また,中国 ODA のやり口(金を貸すだけじゃなく,労働者も中国から送り込んで,現地の社会・雇用環境のことはお構いなしのやり口)をここでも発揮するだろう。おそろしいジニ係数を誇る中国政府のやることは「オレだけよけりゃそれでよい」なのだ。そんなところに日本政府が国税を投入するのはやめてもらいたい。ってわけで,安倍さんが「焦って参加することはない」と表明したのは,国民として支持すべきなんだろう。対米従属はみっともないが結論として正解なら構わない。それでも,儲かるんなら入ったらどや?
* * *

やはり,朝日新聞に,経済破綻寸前のギリシャと EU のリーダー・ドイツとの対立を報ずる記事が出ていた。第二次大戦中,ドイツがギリシャに対し強制的に投資させたことへの賠償を,ギリシャがいまさらながらドイツに求めている等々,態のよいとはあまり思われない諍いをしている。ドイツ国民の間では,ギリシャを EU から追い出せみたいな怒りの世論が盛り上がっているらしい。俺も追い出したほうが皆が幸せになるだろうと思う。ところで,この戦時賠償云々というキーワードはわが日本人もお隣の新興国からイヤというほど責め立てられていることと共通のものでもあり,ドイツとギリシャの諍いは他人事ではないわけだ。

先日,メルケル独首相が来日して,安倍首相と会談し,歴史・過去を見つめる必要性を説いた。ま,お隣の二国がこのメルケル首相発言を大歓迎したわけだが,俺はちょっとドイツが心配になった。韓国・中国と「歴史問題」でもめている日本に「歴史を顧みよ」と進言する…。これはどういうことか。ってことは,ギリシャをはじめ,アフリカの旧ドイツ植民地であったカメルーンやトーゴだって,過酷な植民地収奪という「歴史・過去」を巡ってドイツに尋常でない恨みがあるわけで,メルケル・ドイツは,こうした戦時賠償・植民地賠償の要求に真摯に耳を傾ける用意があると,自分で言っているようなものだからである。

ドイツの第二次大戦後の優等生ぶりは誰もが認めるところだし,戦時中の横暴に対する反省も真摯なものとして隣国から評価されている。しかしながら,それでもドイツの反省は,ナチスの荒唐無稽な人種差別思想とそのユダヤ人迫害に対するものに明確に限定されており,戦争被害や帝国主義的植民地収奪については,他の国々同様,露にも「反省」するところがなかった・ないのも事実なのである。そんなこと言い始めたら,西欧・米国列強は皆,歴史の反省ばかりしていなければならないハメになる。

なのに,ドイツが日本で「歴史」を諭すとはね… アメリカ人に「原住民インディアン虐待,黒人奴隷制度の歴史を反省せよ」なんて言ったら,それこそ「アンタ,いつの時代に生きているんだ」と言われて終わりである。同様にメルケル首相も安倍総理に「歴史を顧みよ」と言うとき,ナチスの悪行の反省しか頭になく,ギリシャやカメルーンのことなど「もう遠い昔の話」式現代的視線の枠内にしかない。要するにメルケル首相は,自分のことは棚に上げて,中国大好きの立場で日本に対する「歴史苛め」に加担しているに過ぎないのである。こういうところからも,政治家の言う「歴史」がいかに自己都合のペテンであるかがわかるわけだ。

安倍さん,なんで皮肉のひとつもメルケルさんに言わなかったんでしょうかね。「メルケルさん,あんたはん分かってまっか? 韓国はあんたのギリシャ,カメルーン,中国はあんたのロシアでっせ」てなもんや。ま,ドイツとギリシャとのガキの仲間割れのような喧嘩をしばらくは眺めましょう。日本も韓国・中国となんとか和解できないものだろうか。アジアの智慧というのがないものか。一回どこかが破綻したほうがいいのかも。この日中韓の三国,それぞれが,他の二国は破綻寸前だと思っているから面白い。オレ? 当然,いまの日本は昇り調子にあり,中国と韓国はともに経済破綻寸前だと思っている次第である。哀れ。

20150327-dogenzaka-sakura-3.png
東京渋谷・道玄坂 与謝野晶子歌碑