今日は雲一つない,気持ちのよい秋晴れだった。虎ノ門・特許庁の前を歩いていると,どこからか金木犀のほのかな匂いが漂って来た。家に帰り漢詩を捻る。題して『秋思』。アレクサンドル・ブロークの詩句を借りたところがある。気取ってるなどと言うなかれ。
秋思 — К Александру Блоку. Sept. 29, 2014.
霽秋薄暮桂香微霽秋 ノ薄暮 桂香 微 ナリ
蝙蝠翻虚混暗幃蝙蝠 虚 ニ翻 リ暗幃 ニ混 ズ
偃睫過嬢無泛咲睫 ヲ偃 セテ 過グル嬢 ハ咲 ヲ泛 カブルコトナク
晩鐘汪洩塔彤煇晩鐘 汪 ト洩 イテ塔 ハ彤 ニ煇 ク
雨の霽れた秋のたそがれ 金木犀が微かに香ってくる
蝙蝠が虚空に翻り 暗いとばりと混ざり合う
女は 睫毛を伏せ 微笑みを浮かべることもなく 通り過ぎる
晩鐘が溢れるように長く音を曳いて 寺院の塔は 朱に輝く
(1) 詩格: 七言絶句平起式平韻正格
(2) 韻字: 微・幃・煇(韻目: 上平聲五微)
(3) 平仄スキーマ:
●○●●●○○
○●○○●●○
●●●○○●●
●○○●●○○
ちなみに,翻案のもとになったブロークの詩行は以下である。
Ты проходишь без улыбки,
Опустившая ресницы,
И во мраке над собором
Золотятся купола.
А. А. Блок, Собрание сочинений в 6-ти томах, Том 1. Л., 1980, с. 374.
おまえは微笑むこともなく
通り過ぎようとする まつげを伏せ
そして伽藍の上の暗闇に
円蓋が金色に光る
アレクサンドル・ブローク『ブローク詩集』小平武訳, 弥生書房, 1979 年, p. 41.
LaTeX で組版した画像と原稿も掲げておく。
秋思 — LaTeX 組版
% -*- coding: utf-8; mode: latex; -*- % 七絶 秋思 Sept. 29, 2014. \documentclass[12pt,b5paper]{tarticle} \usepackage[T2A,T1]{fontenc}% \usepackage[russian,japanese]{babel}% \usepackage[deluxe,expert,multi,jis2004]{otf}% OTF 和文(齋藤氏) \usepackage{sfkanbun,furikana}% 漢文訓点・縦組振仮名パッケージ(藤田先生) \usepackage{plext}% pTeX 縦組拡張 \usepackage[osf,swashQ]{garamondx}% Garamond font \newcommand{\saku}[3]{\normalsize #1 #2, #3.}% \pagestyle{empty} \begin{document} ~\par \begin{kanshiyomi}{10zw}{24zw} \daisakushai{秋思}% {\hfill {\normalsize\selectlanguage{russian}\CYRK{} % \CYRA\cyrl\cyre\cyrk\cyrs\cyra\cyrn\cyrd\cyrr\cyru{} % \CYRB\cyrl\cyro\cyrk\cyru.} \saku{Sept.}{29}{2014}} & \Kana{秋,思}{シュウ,シ} --- アレクサンドル・ブロークニ寄ス\cr % 霽秋薄暮桂香微 霽秋ノ薄暮 桂香 微ナリ % 蝙蝠翻虚混暗幃 蝙蝠 虚ニ翻リ 暗幃ニ 混ズ % 偃睫過嬢無泛咲 睫ヲ偃セテ 過グル 嬢ハ 咲ヲ泛カブルコトナク % 晩鐘汪洩塔彤煇 晩鐘 汪ト洩イテ 塔ハ 彤ニ煇ク 霽\kundoku{秋}{}{ノ}{}\CID{13977}暮桂香\kundoku{微}{}{ナリ}{} & \kana{霽秋}{セイシュウ}ノ\CID{13977}暮 \Kana{桂,香}{ケイ,コウ} % \kana{微}{カスカ}ナリ \cr 蝙蝠\kundoku{\CID{14040}}{}{リ}{レ}\kundoku{\CID{13336}}{}{ニ}{}% \kundoku{混}{}{ズ}{二}\CID{13638}\kundoku{幃}{}{ニ}{一} & \Kana{蝙,蝠}{ヘン,プク} \kana{\CID{13336}}{キョ}ニ\kana{\CID{14040}}{ヒルガエ}リ % \Kana{\CID{13638},幃}{アン,キ}ニ混ズ \cr \kundoku{偃}{}{セテ}{レ}\kundoku{睫}{}{ヲ}{}\kundoku{\CID{13669}}{}{グル}{}% \kundoku{孃}{}{ハ}{}\kundoku{無}{}{ク}{レ}\kundoku{泛}{}{}{レ}% \kundoku{\CID{13788}}{}{ミヲ}{} & \kana{睫}{マツゲ}ヲ\kana{偃}{フ}セテ \CID{13669}グル 孃ハ % \kana{\CID{13788}}{エミ}ヲ\kana{泛}{ウ}カブルコトナク \cr \CID{13377}鐘\kundoku{汪}{}{ト}{}\kundoku{洩}{}{イテ}{}\kundoku{塔}{}{ハ}{}% \kundoku{\UTFM{5f64}}{}{ニ}{}\kundoku{\CID{08541}}{}{ク}{} & \CID{13377}鐘 \kana{汪}{オウ}ト\kana{洩}{ヒ}イテ 塔ハ % \kana{\UTFM{5f64}}{アカ}ニ\kana{\CID{08541}}{カガヤ}ク \cr \end{kanshiyomi} \vspace{2zw} \begin{quote} 雨の霽れた秋のたそがれ 金木犀が微かに香ってくる\\ 蝙蝠が虚空に翻り 暗いとばりと混ざり合う\\ 女は 睫毛を伏せ 微笑みを浮かべることもなく 通り過ぎる\\ 晩鐘が溢れるように長く音を曳いて 寺院の塔は 朱に輝く \end{quote} \hfill\copyright\ \raisebox{0.3em}{2012--2014, \textit{isao yasuda.}} \end{document}