ジョルジュ・ロデンバック『死都ブリュージュ』の読後感として,その作品構造の偏向性・一面性について少々皮肉なことを書いた。けれども,いまもってこの作品の魅力に惹かれてやまないのも事実なんである。「死」に結びついたモチーフ音がコントラプンクトのように,幽かに,鈍く,不断に繰返され,登場人物の振る舞いに絡み付く,物語の玄妙な語り口は,欧州の古都の静謐,黝然とした頽廃的詩情の表現として見事である。
『死都ブリュージュ』再読とともに,1983 年に札幌・北海道立近代美術館で開かれた『ベルギー象徴派展 - Symbolisme en Belgique』の図録を眺めた。この展覧会に出展されたフェルナン・クノップフの一連の『死都ブリュージュ』絵画に魅せられたことが,翌年に国書刊行会から叢書が出るとすぐ取り寄せロデンバック作品を読んだ直接の契機だったのである。ブリュージュで育ったクノップフはロデンバックと親交を深め,彼の『死都』イメージに強い共感を覚え,『死都ブリュージュ』の写真風景と同じ構図でブリュージュを描いた。
展覧会でフェルナン・クノップフ,レオン・フレデリック,ジャン・デルヴィル,ポール・デルヴォーの名をはじめて知り,ベルギーの新しい絵画の存在感を強く印象づけられたのである。
アマゾンで検索してみると,『ベルギー象徴派展 - Symbolisme en Belgique』の図録はまだ古書で入手できるようだ。以下のリンクは 1982 年の東京での展覧会の図録である。