金曜日に顧客から急なシステム開発見積り依頼があり,予算の関係で連休明けに社内で検討するから土曜日に見積り回答を持って来いと言う。子分にドタバタ案を作らせてチェック・訂正し,営業担当者とレビュー。昨日は三連休の初日だというのに見積り説明のため顧客を訪問した。一式三千万円也。「高い」。顧客要求納期三月末に対し,弊社回答は二月中旬発注の条件で六月末。例によって提示仕様が曖昧な上,短時間での見積りにつき,危険値を相当考慮したのだ。安価でかつ三月末で仕上げるための弊社仕様案も付けて説明したのだが,やはり短納期で出来ることは高が知れている。「これじゃ 12 年度の予算には捩じ込めない」と顧客担当者。「ありがとう,見積りはこちらで預かる。社内で検討してみる」とのことだった。万事思うとおりに行かないのが見積り折衝である。急な依頼に応えたところはきちんと労いのことばをかけてくれた。優しい顧客である。ま,来週第二ラウンドか。
旧暦で一月一日,お休みの今日,屋根裏部屋の書斎に設置したアナログ・プレーヤの調整をした。1階リビングに据え付けたアンプの Phono 回路の調子が悪くなり,そこのアナログ・プレーヤ(Technics SL-1200)に取り付けてあったカートリッジ ortofon 社製 MC-20S を書斎で使うことにした。これ,値の張った結構な機種なんである。これまで書斎で使っていた DENON 社製 DL-103R というベストセラーモデルは予備に回すことに。
ortofon MC-20S カートリッジは,DENON DL-103R のみならず一般の製品と比べても,高さも重さも一回り大きく,重く,アナログ・プレーヤ側でアーム高やウェイト調節が柔軟に出来ないと使えない。書斎のアナログ・プレーヤは,松下電器が 1977 年に発売した Technics クォーツ・ロック式ダイレクト・ドライブ・プレーヤ SL-01 という年代物。こうした調整に応えられるきちんとしたモデルである。アームも,ターンテーブルも,ことごとく漆黒の精悍なボディに,木目調の Start / Stop ボタンとボディ・ラインとが意匠上のアクセントとなっている。私の好みのデザインなんである。性能も申し分ない。製造されて三十余年になるのにターンテーブルの回転はまったくブレがない。堅牢そのもの。
Technics SL-01
カートリッジのオーバーハングをプレーヤ指定の 52mm に調節してピックアップをアームに取り付け,針先が盤面を並行にトレースするようアームの高さを調整し,針圧とアンチスケーティング(アナログ・プレーヤの湾曲したアームはそのままでは円盤の中心に向って勝手に滑り出す力学構造になっているので,高級機はそれを打ち消して左右バランスよく音溝をトレース出来るようにする滑止圧力調整機能=アンチスケーティング機構を備えている)とを 2g に設定する。取説を引っ張り出して確認しつつ慎重にやらないと高価なカートリッジがパーになる。面倒ではあるが,これもアナログ・オーディオの楽しみでもある。
Technics SL-01 + ortofon MC-20S
調整・設定が完了し,レコードを再生。選び出したのはマックス・レーガーのフルート,ヴァイオリンとヴィオラのためのセレナーデ・ニ長調作品 77a 及びト長調 141a。ペーター=ルーカス・グラーフのフルート,シャーンドル・ヴェーグのヴァイオリン,ライナー・モークのヴィオラによる演奏,1981 年,スイス Claves 輸入盤。Max Reger - Flötenserenaden D-dur op. 77a und G-dur op. 141a. Peter-Lukas Graf, Flöte; Sándor Végh, Violine; Rainer Moog, Viola; Produktion Claves, Schweiz, 1981。ortofon MC-20S はちょっとそこらの MC カートリッジとは違います。
Max Reger - Flötenserenaden op. 77a und op. 141a, Claves
マックス・レーガーは,伝統的古典音楽の語法の裡に世紀末の前衛的反逆性を感じさせる意味で,最近私が強く惹かれている永井荷風の行き方に通じるものがある。ある時代背景にあっては古典的マナーが強い反時代的孤高の相を帯びることがあって,思うに,レーガー,荷風はそういう例だ。作品 77 及び 141 はそれぞれ二曲セットになっていて,セレナードは 77a,141a。その相方ともいうべき 77b,141b があり,それは弦楽三重奏曲イ短調,ニ短調である。ここからすぐ,これら二曲のトリオのセットはともにお互い調性を裏返した曲想を備えていることが察せられる。弦楽三重奏曲が重厚,陰鬱,悲観的,諧謔的であり,レーガーの作風に相応しいのに対し,セレナードは,まるで「いつもは陰気で気難しい人物なのに,今日はなぜか快活で,こちらを気遣ってくれ優しい,どうしたんだ?」と思われるくらい,軽快にして優美な音楽である。思うに,セレナーデだけを聴くとレーガーを誤解する。弦楽三重奏曲との複雑な呼び交しを吟味すべきだろう。
このクラーヴェス・レーベルのアナログ・レコードは CD 化されている。私はこれも所有している。以下にそのアマゾン・リンクを設置しておく。
Sándor Végh (Violine)
Rainer Moog (Viola)
Claves
ついでながら,レーガーの弦楽三重奏曲の CD も挙げておく。ウィーン弦楽三重奏団による盤が最高の名演だと思う。Max Reger - Streichtrios a-moll op. 77b, d-moll op. 141b. Wiener Streichtrio (Jan Pospichal, Violine; Wolfgang Klos, Viola; Wilfried Rehm, Violoncello),独 CALIG 輸入盤。