健康のために歩いている。無理がなくて,かつ無駄遣いもせずにすむ。会社の帰りに,赤坂溜池から新橋まで約 2 キロ,JR 横須賀線・武蔵小杉駅で下車して新川崎の自宅まで約 3 キロ。休日は自宅から JR 川崎駅まで約 6 キロ。先週の三連休,妻と娘が岩手に帰省している間,三日連続で自宅・川崎駅間を徒歩で往復し,36 キロ歩いた。おかげで,この三ヶ月くらいで 5 キロ瘠せた。腰痛もよくなった。
今日も娘の買い物に付き合うのに,自宅と川崎駅との間を歩いて往復した。歩きたくない短気な娘はバス。独り歩きながら,携帯電話に格納した MP3 でアルバン・ベルクの協奏曲を聴いた。ヴァイオリン協奏曲『ある天使の追憶のために』と,ピアノ,ヴァイオリンと十三管楽器のための室内協奏曲。渡辺玲子のヴァイオリン独奏,アンドレア・ルチェジーニのピアノ独奏,ジュゼッペ・シノーポリ指揮,シュターツカペレ・ドレスデンの管弦楽によるレコード,英 elatus 輸入盤。
ベルクの曲は無調性のエキセントリックなロマンティシズムがなによりの魅力である。おそろしく芝居がかっていて,嫌いな人は徹底的に嫌うのではないかと私は思う。この二つの協奏曲は私にとってベルクの頽廃をいかんなく現す代表である。ヴァイオリン協奏曲はその献辞(副題のような扱いを受けているが)にあるとおり,マノン・グロピウスという十九歳の若さで夭折した美少女の思い出に,というセンチメンタルな作曲の経緯が知られているが,テーマの音列に愛人のイニシャルを埋め込む書法から,私なんかは,彼自身の愛欲と少女趣味とのイヤらしいコンプレクスを感じ取ってしまう(ぜんぜん根拠がありません。私が下品なだけ)。ま,ベルクはこういうドロドロしたいけない感情を託すに相応しい,ロマンに溢れた作曲家なんである。
私は学生時代からずっと,ピエール・ブーレーズ,ピンカス・ズーカーマン,ダニエル・バレンボイム,アンサンブル・アンテルコンタンポラン,ロンドン交響楽団の演奏で,この二曲を愛聴して来た。1995 年・赤坂サントリーホールでのピエール・ブーレーズ・フェスティバルで,ほぼ同じ演奏者(ヴァイオリン独奏はズーカーマンではなくギドン・クレーメルだったが)で室内協奏曲のライブを聴き,圧倒された,その記憶のよすがとして。しかし,シノーポリの盤はブーレーズに優るとも劣らない仕上がりで,録音が新しいだけに,これからの私のリファレンスになりそうな名演である。渡辺玲子のヴァイオリンの濡れるような音色が艶かしくて,瞠目させられる。
P. ブーレーズ (Dir),ロンドン交響楽団
株式会社ソニー・ミュージックレコーズ (1986-10-22)
P. ブーレーズ (Dir), アンサンブル・アンテルコンタンポラン
ポリドール (1996-10-02)
Giuseppe Sinopoli (Dir), Staatskapelle Dresden
Elatus (2002-11-25)