Mother's Day

今日は母の日。渋谷・代官山を散歩して,妻に午飯を馳走することにした。最近,休日にはプログラムを書いてばかりいたので,ポカポカ陽気の外を歩きたくなった。かねてから一度行こうと思っていた代官山・蔦屋書店も覗いてみたかった。

代官山は,広尾と同様,外国大使館が点在し,外国人が多いためか,ハイソな趣きがあり,デザイナーなんかが好んで棲むお洒落な土地柄である。坂が多く起伏に富んでいるのも渋谷近辺の特長である。お午過ぎ,東急東横線・代官山駅に降り立つと,オープン・カフェやブティックなどの瀟洒な店が建ち並び,若いカップルで賑わっていた。この雰囲気,私には場違いな気分を禁じ得ず。

腹が空いていた。駅近くのビル半地下のようなところにある,「海苑」という名の中国料理レストランに入った。清朝宮廷人の官衣を飾り付けた豪華なお店だった。飲茶ランチと瓶麦酒を注文した。鷹の爪・山椒・四川唐辛子の効いた辛い麻辣スープ,海老の詰まった蒸点心三種,餠大根,太い春巻,油のさっぱりした炒飯,抹茶杏仁豆腐というメニュー。薬味も上品な味で,腹落ちもよくて(要するに,ピザやハンバーガーとは違う,「食った」感じがして)大いに満足した。コジャレたイタリアンなんかにしないでよかった。

山の手通りを歩いて蔦屋書店に向かう。途中,小路のブティックに見事な白のジャスミンが咲いていた。その咽せるくらいの白昼の芳香のなかで,白い野良猫が日向ぼっこをしていた。

代官山・蔦屋書店は昨年 12 月のオープン。そのときのネットニュースで私は知った。その名の通り,レンタルチェーン TSUTAYA のお店。読んだ記事には,「大人の知的好奇心を刺激!」,「従来の『TSUTAYA』とは一線を画す,大人仕様の超充実店」とあり,少し私も興味を掻立てられた。今日訪れてみて,確かにたいへん趣味のよい店作りで,美術関係書籍も豊富,レンタル CD についても他の TSUTAYA 店舗では絶対にないくらいクラシック,ジャズが溢れており,黒とブルーの McIntosh 高級オーディオが洗練された深い音を繰り出していた。

ま,書店の規模としては川崎駅のいつも行くあおい書店,丸善に及ばず,品揃えに「大人の知的好奇心を刺激」というほどのこだわりも窺えず,残念ながら,代官山のお洒落な一画にあるお洒落な店舗という見せかけで終わっている,まさに代官山に相応しい書店。『ダ・ヴィンチ』の愛読者なんかが好きそうなモードな書店。— というのが,残念ながら,貧乏人で,趣味のいかがわしい私の感想だった。

でも,an an や nonno,平凡パンチなど雑誌のバックナンバーに興味がある人にとっては,付属のカフェに一大コレクションがあるので,訪れてみる価値のある書店である。人出の少ない静かな夜に訪れて,コーヒーを飲みながら,備え付けの椅子で買った本を読んだり,レンタル候補 CD を視聴したりすると,ゴージャスな気分が味わえることは間違いない。このお店,深夜 2 時まで営業している。おそらくその頃合いに来店しないとこの店の本当の良さはわからないのかも知れない。

20120513-daikanyama.png代官山散歩: 海苑,蔦屋書店
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子供たちが録画してあった,テレビ朝日の人気ドラマ『相棒』を観た。私はこのシリーズが好きである。今回の再放送は,なかでも私のお気に入りの話だった。

サトエリ(佐藤江梨子)扮する,金のためなら何でもする強欲の美人・ミサエが,「和製シャーロック・ホームズ」だと勘違いして薫ちゃんを拉致・監禁し,「やまとしうるはし」の古代歌謡に基づく暗号解読を命じて,旧帝国陸軍将校の秘密結社が残した金塊を蔵するとされる金庫を開けさせようとする。強欲もキ印にまで達するかの凶暴な狂女を,サトエリがコミカルに演じていてよかった。薫ちゃんをボコスカ殴るシーンは最高である。私のサトエリ観はこの『相棒』season4 と生理用品の CM だけなんである。

「刃桜」なる秘密結社,暗号解読によるお宝探索など,番組のなかで右京さんの口にした通りの「荒唐無稽」感こそがミステリーの醍醐味だと思うところなので,この回のパロディー的笑いに富んだ非現実感は,ホント,私の好みなんである。真面目な『相棒』も好きなんだけど,殺人の不可解な動機,ご都合主義的事実の挿入など,真面目なだけに鼻から失笑が漏れるときもある。「荒唐無稽」のモチーフは,笑いと夢とで,こうしたわざとらしさをすべて異化してくれるのである。