大阪市長選告示

大阪市長選挙が告示された。11 月 27 日投開票,府知事選挙と同時である。元大阪府知事・橋下さんが知事を辞してまで大阪市長に立候補するのは,知事時代の大阪市長との確執から,まずこの目の上のたん瘤・平松さんを追い落としておいてから,自身の大阪維新構想に道筋をつけようということだろう。若いからこそそういう発想ができるのだろう。私は大阪生まれだけどいまは川崎市民であって大阪市民ではないので,大阪市の地方自治などじつはどうでもよい話ではある。それでも,何にせよ話題の多い橋下さんの動向にはつい野次馬根性が出てしまう。

おそらく橋下さんが圧勝するだろう。大阪だってこの長い低迷で疲弊しているにも拘らず,「大阪市をバラバラにすると言っている人がいる。つぶすのは簡単だが,二度と戻らない」などと現状を守りたい一心の平松さんに投票するのは,おそらく,現時点でいちばん得をしている 60 代以上の年寄りだけだろう。これに対し,役所職員・議会と厳しく対立し,霞ヶ関すらを敵に回してでも,地方の自主的運営・発展をめざす橋下さんは,「少なくともいまロクなことがない」と思っている有権者には「何か変えてくれるだろう」という期待感をもたせるはずである。彼は独裁者風資質をもっているように思われる。カリスマのある政治家ということ。これも彼を魅力的にみせている。民主党も同じ「チェンジ」への雰囲気で政権を獲得したが,官僚とマスメディアとにつぶされて,いまや昔の自民党が少し気弱になったくらいに堕落してしまったが,民主党が植え付けた地方分権が橋下さんの構想で,いまふたたび問われているように思われる。

地方自治というけれども,これまでの地方自治はじつは名ばかりで,霞ヶ関のヒモがついた予算で霞ヶ関の言いなりの税金消費がなされているのが実質的な姿である。一括交付金など地方自治体の意志で自由に使えるカネを国からもらっても,地方の首長・議会・役所は住民のよりよい未来のための使い途を何も考えつかないので,もらっても困るのである。もとより自己保身最優先の地方公務員であるから,自主的にやってヘマをするより国の言いなりになるほうが大いにラクかつ安全だからである。これは私が勝手に言っているのではない。Japan Business Press 記事『「一括交付金」を欲しがらない自治体の情けない本音』をご覧ください。地域住民はおそらく唖然とするだろうが,地方自治体というものが生活の中で「政治」の影が薄いのは当たり前なのだ。

江戸幕府の末期,幕府は財政破綻寸前になり,重税ゆえに農民一揆が頻発し,海外からの開国圧力が強まり,内憂外患の果てに大政奉還となった。国家予算の 10 倍以上の政府の借金,雇用不安と若年層貧困の拡大,海外からの自由貿易圧力と安全保障不安,と上げて行くと,まるでいまの政府が抱える問題とまったく同じ構造ではないか。幕末では,各地方の藩も幕府同様に財政危機に見舞われていたわけだけど,こういうなかで長州藩,薩摩藩などは,海外との交易や特産品専売などの独自の経済施策によって財政危機を克服し,軍事力を蓄積し,幕府の中央集権的政策と対立して,結果的に幕府を倒すことになった。そしてその後の明治政府を牛耳ることになったのは,歴史の教えるとおりである。長州や薩摩などと違って自主政策を推し進められなかった藩は幕府とともに沈んだ(東北地方はその代表。いま現在も東北地方は首都圏のお上に右へ習えなのがホント興味深い)。

歴史的アナロジーはある意味で愚かなんだけれども,橋下さんの大阪都構想は幕末の長州・薩摩の自主政策の推進と同じように私には見えてしまう。薩長のように大阪から日本の未来が開けるかも知れない。そのためには大阪に国は強大な権力を委譲するのがよい。私は大阪がどうなって行くのか少々期待しているのである。