企業倫理

最近は職務遂行上のコンプライアンス,つまり企業倫理,遵法精神が本当にうるさい。情報セキュリティ,個人情報保護,特許・著作権保護,輸出管理とともに,仕事を遂行する上でつねに意識しておかなければならないファクターになった。談合,横領・背任,贈収賄と事件が起こるたびに会社幹部は戦々恐々として,わが社で同じことが起きないよう注意喚起をしている。講習会もたびたびである。昨日も研修会に参加して来た。

情報システムの設計・開発・保守を業務とするわが社の現場レベルにおいてつねに直面する問題として,労務管理,経理処理,調達・発注,反社会的組織・公務員への対応の四つの観点からなる危ないポイントが解説された。特に問題事例研究がいたく面白かった。私自身がハマりそうになった「事件」がいくつも紹介されていた。

われわれの仕事では,大規模事業者を顧客にしていると,一人の担当者が年間 5 億円くらいの開発作業を取り扱う。一人がいくつもの契約作業を抱えている。ある契約案件は年度末納期である。またあるものは今年度から作業を開始し来年度 9 末納期である。今年度はプロジェクトの予算を過達し余裕が出てホッとしているが,一方,来年度予算は売上・損益ともに非常に苦しい見通しである。こういう状況のとき,悪魔がささやく:この二つの契約作業のうち,来年度納期の作業工数(要員経費)を余裕の分だけ今年度完了の契約作業に付け替えれば,苦しい来年度予算の赤字幅を削減できる。私は主任のころ何度この誘惑に駆られたことか。しかし,これは税法違反であって,国税庁にバレると重加算税が課せられるのである。

また,こういう「犯罪例」があった。年間 5 億も廻していると外注への発注も 1 本 1 億円くらいの伝票を切ることがある。外注先と結託して,いくつもの作業項目の中に納品検証の難しい項目を入れる。じつはそれは名目だけであって,その小項目経費 100 万円くらいを外注先にストックさせる。納品が完了したあとに,外注先のワルに個人的にキャッシュバックさせて懐に入れる,当然,外注先のワルの懐にも幾許かが入る。発注の承認者はそんな細かいところまでチェックできない。ところが,国税庁のマルサは外注先の経理処理と付き合わせてこういうのを難なく暴いてしまい(ホント彼らを舐めてはならない),担当者は横領・背任容疑で逮捕されてしまうことになる。

反社会的組織への対応というのは,要するにヤクザとの関わりを完璧にシャットアウトするということである。暴力団排除条例が先の 10 月,沖縄県と東京都を最後として,全都道府県で施行されるようになった(この条例によればヤクザ「関係者」は,事業のために事務所賃貸すらできず,銀行融資・口座開設その他の経済活動さえできなくなる。あの「暴力団関係者」島田紳介さんが沖縄に潜伏していた背景には,沖縄ではまだ暴力団排除条例が施行されていなかった事情がある,とも考えられる)。これに伴い,当然ながら官庁等の調達条件に暴力団関係者排除の項目が入ることになり,これはたとえ受注後であっても,ヤクザとの関係が明るみに出ると契約破棄及び損害賠償の責任を負わされる条項が付くため,企業はつねにヤクザ・クリーンにしておかなければならないのである。ヤクザと関らないというのは企業イメージの保持のみならず,企業の死活上の問題になっているのである。島田紳介さんに同情している人は,残念ながら,企業人には一人もいない。

公務員対応は当然ながら贈収賄・談合犯罪を起こさないような仕組みづくりである。公務員倫理法のなかった昔は,公務員であれなんであれ,顧客を接待するのはビジネスマンとして当たり前の行動であった。私もかつては銀座や新宿の相当いかがわしい場所でお客を豪遊させたクチである。昨年起こった特許庁審判官とNTTデータ社員との贈収賄事件についても事例紹介があった。これ自体は大した事件ではなかったのだけれども,その後,NTTデータは官庁入札の指名停止をくらった。これこそがわれわれにとっての悪夢なのである。私の会社はコンピュータ商売もあれば,発電所,ビル電機設備,鉄道など,公共事業になくてはならない分野で幅広く事業展開している。ここでコンピュータ事業の一担当者がたかだか 200 万くらいの贈賄をやったがために,数ヶ月の間,全事業の指名停止処分を受けるとなると,バナナの皮で滑って転んで死ぬ以上のインパクトがある。会社幹部が戦々恐々とするのも当然なのである。

企業倫理。これを尊重しないと社会を敵に回します。絶対遵守ですぞ。
 

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今夜,会社から帰宅したら,おいしいカステラが待っていました。
 

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