桜が咲いた。まだ花見はしていない。今週末のお休みには散歩がてら桜を眺めたいものである。さっき会社からの帰り,自宅に着く直前,近所の工場跡(トタンに覆われた昭和な建屋なのに,バレエのレッスンをやっていたり,デザイン系の事務所が入っていたりする,ちょっと変わった場所になっている)の夜桜がきれいだった。

与謝野晶子は「清水へ祇園をよぎる桜月夜今宵会ふ人みな美しき」という歌を詠んだ。まったく根拠も無いのにこの世がなべて美しいと思われることがあるものである。今夜は残念ながら月は見えない。けれども,宵闇の桜もよかった。
 

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金子みすゞの本がいま売れてるらしいよ,と妻が言っていた。震災後,一般のテレビ CM がかからないなか,金子の詩を朗読する AC の広告が,非日常の研ぎすまされた何かを人の心に呼び起こしているんだと私は思う。金子の詩は,コミュニケーションが枯れ果ててしまったこの現代にこそ魂を揺さぶるものをもっている。
 

  さびしいとき
 
私がさびしいときに,
よその人は知らないの。
 
私がさびしいときに,
お友だちは笑ふの。
 
私がさびしいときに,
お母さんはやさしいの。
 
私がさびしいときに,
佛さまはさびしいの。
『金子みすゞ全集』巻二,JULA出版局,1984年,p. 176.
 


金子みすゞ全集 (1984年)

金子 みすゞ
与田準一ほか編
JULA出版局