映画『ALWAYS 三丁目の夕日』は,日本が復興ムードで元気だった昭和三十年代を描いて邦画としては異例のヒット作品となった。この映画のなかで,建設途中の東京タワーの少しずつ完成に向かって行く姿が日本の成長の象徴になっていた。三百ウン十メートルの高さになるなんて当時の人はわくわくしたはずである。私もはじめて東京に連れていってもらった小学校四年生のとき(1972 年),東京タワーを間近に仰ぎ見るのが本当に楽しみであった。
2008 年に着工され,2011 に竣工される予定の東京スカイツリーも,かつての東京タワーとまさに同じわくわく感を,おそらく日本中に伝播させているところではないだろうか。いまいちど日本を元気にしたいという暗黙の雰囲気が痛いほど伝わって来る。ところが東京スカイツリーは,東京タワー建造の復興期とは対蹠的に,人口減少に転じた沈み行く日本のまさに斜陽期に打ち立てられようとしている。むしろバベルの塔のような存在。それでも,東京スカイツリーの話題は最近の数少ない明るい話題であり,私も完成を楽しみにしている。
讀賣配信ニュース『誰が校長を殺したか…これが中間試験?』をみた。高校の先生が「『41124』の文字を手がかりに,実在の教諭7人の中から犯人を選択するという」問題を試験に出した。「問題に登場する国枝裕校長は『不適切な設問』として,問題を作成した20歳代の男性教諭に口頭で厳重注意した」とのことである。答えは家庭科の先生。41124 をひっくり返すと「カていーカ」だとさ。暗号解読で犯人を推理する面白い問題である。
世の中の反応は「教育現場における良識の欠如」を問題視する人が多いようである。「学校は何をやっているのか」と。先生はたいへんである。こんな面白い問題を,面白半分で出して何が悪い。「殺人を肯定する行為」なんて飛躍した論評をなすバカもいる(あの NHK ですよ)。こういう受け止め方のほうがよっぽど危険であることがどうしてわからないのか。学校の先生が推理小説を書いて,そこで残虐な殺人事件を描いたとする。この小説は評判を取り,じつは学校にいる実際の先生と同じ名前の登場人物が出て来るので,クラスの皆が面白がって読んでいた。彼の行為 — 殺人の出て来る小説を書いた行為 — は殺人を肯定しているのだろうか? これと 41124 の問題と本質的に何が違うと言うのか?
子供たちに「フィクション」というものが何なのかをきちんと教えるべきではないか。頭の中なら何だって自由だということを。しかしそれを現実世界で行うことはそれとは根本的に違うことなのだということを。それをすっ飛ばしてバカな子供たちにこういう試験問題を出してしまったのだとしたら,この先生は少し脇が甘かった。その誹りは免れないかも知れない。いや,バカな子供たちに,ではなく,バカな偽善的父兄連中によって,ひいては「フィクション」というものにナイーブな,潔癖性に毒された,本を読まない低レベルの世間によって,どのように誤解されるかを想定せずに,彼がこのお茶目な推理問題を出してしまっていたとしたら。脇が甘い。でも,ただそれだけのことである。この先生,可哀相。ま,残念ながら,面白みのある人は不謹慎なことが多い。そして自己保身の気持ちが薄い。
オレが先生だったらどんな問題を出すかなぁ...
高校三年生のケイコは,父親がリストラされた。あんなに優しかった父が毎日酒を呑んで暴力を振るうようになった。母もそんな父に嫌気がさして失踪してしまった。仲良しだった友達とも空気が悪くなり,誰もケイコに声をかけてくれなくなった。ケイコは自分の居場所がなくなった。もう死ぬしかないと,そればかり考えるようになった。だって,まだ十七年しか生きていない,惜しむには値しない。
ふと目の前に完成した東京スカイツリーが立ちはだかっている。そうだ,あの世界一の電波塔から飛び降りて私の人生を終わらせよう。
気付いたらケイコは東京スカイツリーの狭い頂に立っていた。地上 634 メートル。世の中が愚かしく見えた。富士が綺麗だった。ケイコは最後に物理の変人・ヤスダ先生にお別れの電話を掛けることにした。
- 「先生,わたし,いま東京スカイツリーのてっぺんにいるの。これから飛び降りて死にます」
- 「おい,早まるな。まだお前にはいくらでも明るい未来が開けている。少子化なんだから,二人くらい子供を産んでから死んだらどうだ。先生が手伝ってやってもいいぞ」
- 「もう遅いの」
- 「待て。何でよりによって昼ご飯の少し前に死ぬなんて考えるんだ? お前,腹減ってんだろ?... わかった。じゃあひとつだけ先生と約束してくれ。これから先生が問題を出す。それが解けたら,お前のしたいようにしなさい。そのかわり解けなかったら,そこを降りるんだ。飛び降りる,ではなく,ただ昇った道筋を逆方向に,引力と闘いながら自力で伝って降りるんだ。どうだい?」
- 「いいわよ」
しばらく考えてケイコは言った。じつは半分呆れたのだ。
- 「よし。お前はいま 634 メートルの東京スカイツリーの頂点にいる。これは前人未到の凄いことだ。そこで問題。そこからお前が飛び降りたら,何秒後に死ぬか,求めよ。g = 9.8 とせよ。いま無風状態で自然に物体が落下すると仮定せよ。そして,お前は垂直に自由落下し,しかも東京スカイツリーの建物に遮られることはないとせよ。地面に到達した瞬間に即死するものとせよ。つまり,着地から絶命までの時間,及び昇天する,もしくは地獄に堕ちるまでの時間 — たとえば,三途の川渡り,最後の審判もしくは,閻魔大王との会見ないし通過料値切り交渉の時間,エトセトラ,エトセトラ — は,考慮しないものとせよ。回答は少数第三位を四捨五入して第二位まで求めよ。電卓の使用を許可する。制限時間は 10 分。先生の時計で 11 時 58 分 32 秒までだ。では ... はじめ!」
以上のような問題はいかがでしょうか。自由落下する物体の t 秒後の位置(2-1·9.8·t 2)の問題だ。「先生,問題文長過ぎ。最後のヤスダ先生の台詞だけでいいじゃんか」と生徒が文句を言う。その後ケイコがどうなったかって? 日本標準時刻 2012 年 9 月 1 日・午前 11 時 58 分 32 秒には何も起こらなかった。馬鹿なケイコは問題が解けなかった。それで約束通り地上に舞い戻って来た。めでたし,めでたし。
Tokyo Sky Tree (Небесное дерево Токио) высотой в 634 метра - это новый ориентир в Токио. Это наш новый символ блестящего будущего (или нынешнего упадка) Японии. Если бросишься с вершины его, умрешь, по моему счету, через 11,37 секунд. Здесь не учитываются следующие условия: 1. время возхождения на Небо (или время падения на глубины Ада); 2. препятствие в свободном падении.