『停電少女と羽蟲のオーケストラ』

もう公開を止めてしまった misima のユーザーの方から CD をいただいた。作詞家・歌手・声優の江幡育子さん。『停電少女と羽蟲のオーケストラ』のテーマ曲等,彼女が製作に関った関連作品 4 枚。詞の旧字・旧仮名遣いのために misima を使ったそうである。詩歌の表記変換で misima をお使いの方からよくメールをいただき,それを機にいろいろと興味深いニーズ,旧字・旧仮名遣い事情を知るところとなり,ときおり,このようにお仕事の成果をいただく機会もある。misima 作者として冥利に尽きる。

『停電少女と羽蟲のオーケストラ』を私は寡聞にして知らなかった。ググってみると,ドラマ CD として人気を博しているようである。IM プロデュース,二宮愛原作・脚本,竹内順子,櫻井孝宏,平田広明ほかの声優,ZIZZ STUDIO の音楽による作品。ジャケットにある田倉トヲルによるイラストは,椿や薔薇の花,蝶,菊の紋章などが特徴的にあしらわれ,和風アールデコというべき魅力がある。

イラスト・キャラクターデザインでアニメのイメージを動機付け,ラジオドラマのような声だけの芝居で視聴者を楽しませてくれるこのような新しいメディアもあるんだと知り,興味深かった。作品に登場する盲目の主人公・灰羽(はいばね)のように,音だけで世界を想像しながら物語に聴き入る — テレビよりラジオにこそ論理的想像力を刺激されその面白みを理解できる人にはお勧めである。「アニメを観ないでアニメに萌える」ことのできる,一段高度な時代に突入したということか。

「停電少女」— アニメによくある「電気ブラン」風造語である。昔はハイカラなものに「電気」何々と命名したそうだけれども,アニメでは「電気・電波」系は精神異常というような一種独特の意味で使われることが多い。この「停電少女」は,蛍の化身的存在,主人公・ネムの発光能力を失った姿を意味するようである。こういう欠落感を主人公に纏わせるところが,私には現代的に思われる。
 

停電少女と羽蟲のオーケストラ 「一輪花」
寺島拓篤(柩)/下野紘(橘):Vo
IM (2010-01-09)
停電少女と羽蟲のオーケストラ 第一楽章:蛍
竹内順子,櫻井孝宏,平田広明ほか
IM (2009-07-24)