今日,相撲を観に両国国技館に行って来た。はじめての経験である。妻の担当した俳人が時津風部屋後援会の名士で,一階枡席に招待してくれたんである。妻の勤める出版社社長夫妻と四人で飲み食いしながら大相撲の臨場感を堪能した。息子がセンター試験のため渋谷に勝負に行くというのに,親は夫婦そろって物見遊山。少し呆れながらも,それはそれ,これはこれ。息子の健闘を祈りつつ,出かけたのである。テレビで観るのとはまったく違った。観客のどよめき,力士の肉体のてかり,投げの躍動はなんともいえなかった。
高見盛,琴欧州など人気力士が登場すると場内が騒然となって四方から声が上がる。先日千代大海を倒して幕内勝星の記録を打ち立てた魁皇関への声援も凄かった。それでもやはり横綱の貫禄には敵わない。朝青龍のガン付けパフォーマンス,それに続く危なげない取り組み。さすがである。社長のご贔屓・身長 169 cm の前頭・豊ノ島が身長 191 cm の旭天鵬を素晴らしい投げで打ち破った。小よく大を制す,のとおり今日もっとも見応えある一番であった。社長は上機嫌。この豊ノ島こそ次の大関だとしきりに誉めていたのである。
懸賞取組について社長から興味深い話を聞いた。あれは一本三万円くらいだそうで(※),うち半分が勝った力士に,残りの半分は相撲協会に渡るのだという。協会は力士の後年のための積み立て金として貯蓄するんだそうである。社長は一本三万ならウチも出そうかと思いつつなかなか踏み切れないとのこと。相撲の世界を知る者独特の控え目があるのかも知れない。永谷園,マクドナルドは何本も懸賞金を出していて,一言企業紹介アナウンスがその本数分続いてじつに面白かった。一懸賞取組当り必ず四本出す永谷園は「味ひとすじお茶漬けの永谷園,さけ茶漬けの永谷園,梅干し茶漬けの永谷園,わさび茶漬けの永谷園」という具合。永谷園は相撲の世界では重鎮企業というイメージが定着しているようだ。観客も定番のようにアナウンスを聞いて興じていた。
高見盛に「永谷園!」と声援を送るお隣の客には,つい笑ってしまった。この隣の客,めっちゃうるさいオヤジで,不甲斐ない大関・琴光喜には「カネ取る前に相撲取れ!」と檄を飛ばし,元楽天監督・野村さんが NHK のゲストに招かれているのを認めると「ノムラー,頑張れー」と叫び,結びの一番では行司に「ショーノスケェー」と呼ばわり,臆面がない。こういうファンの行動も,テレビでは味わえない面白さのひとつである。
私はじつは,結びの一番の番狂わせが惹き起こす,座布団の飛び交うあの騒擾を是非観たかった。そして,なんと横綱・白鵬が関脇・把瑠都に敗れるという大波乱が起こり,期せずしてそれを目にした。社長によれば,座布団投げは禁止行為との話だったので,私は投げなかった。白鵬は今場所 6 連勝中,通算 30 連勝中だっただけにがっくり来ていた。相撲の醍醐味は観客が作る。この大いなるどよめきのなか,弓取りが繰り広げられ,呼出がまるで誰もいない公園での仕事でもあるかのように静かに帚を掃いている。この動と静が私には堪らなかった。
麦酒,日本酒,幕内弁当,焼鳥など飲み食いした挙句,「お土産」までいただいた。枡席の客は,相撲茶屋と呼ばれる接客業者に席へ案内され,料理を運んでもらい,お土産を受け取って帰るのである。いったいいくらかかったのか知らん。一階の四人枡席が 45,200 円とあったが,これは観戦だけの料金だろうと思う。ご祝儀の慣習もあると聞く。でも,ごくごくたまにこういう行楽をなす値打ちが確かにある。
相撲協会は先般,大麻問題で批判を浴び,大激震が続いた。日本人力士の成績が振るわないところも,相撲人気の伸び悩んでいる原因かも知れない。でも,こんなスペクタクルを見せられると,そんなことどうでもよいという気になってしまうから不思議である。裸の力士はホント,カッコいいのだ。枡席観戦はセレモニー価格だとしても,自由席なら大人 2,100 円,子供は 200 円で,プロ野球観戦よりもずっと安い。これからちょくちょく足を運びたくなってしまった。
番付を貰って来るのを忘れてしまった。力士の錦絵が欲しかったが手が出なかった。でも,貰ったお土産に江戸の力士が描かれたバスタオルや,軍配をあしらった茶器があり,満足した。私は自分の甲斐性ではこのような経験がとんとできないが,妻のコネで今回ありついた。招待してくれた俳人の先生,社長ご夫妻に多謝。
大相撲一月場所七日目
国技館・相撲茶屋
中入り前の風景
中入り後の力士顔見せ
横綱土俵入り
横綱・白鳳,クールです
時間です。高見盛っ!
横綱・白鳳 VS 関脇・把瑠都 立合いの直前
横綱・白鳳 VS 関脇・把瑠都 上手を取る
横綱破れ,座布団が舞う