もうひとつの「仰天過去」

仰天過去』といえば,かつて「疑惑の総合商社」と国会で非難され,斡旋収賄罪・政治資金規正法違反罪で公判中の鈴木宗男議員が,18 日の衆院本会議において外務委員長に就任した。私はこのニュースに本当にびっくりした。いま日本の政治が本当に面白くなって来たのだと痛感した。この人事は『自公など,『鈴木外務委員長』に異議=衆院本会議,開会遅れ』にあるように,批判を浴びている。リンクしたニュースに付加されているコメントをみると,「自公など」の「面白くない」政治をしてくれた方々と同様,「疑惑」を「事実」であるかのごとく鵜呑みにするおめでたい人達がほとんどのようである。

しかし,民主党がまっとうに主張するように,鈴木議員はまだ公判中であり,有罪が確定し公民権が停止したわけではなく,なにより「選挙」という政治家にとって最大の審判を経て国会議員の立場にあるのだから,まったく問題がない。鈴木議員は,その「疑惑」がいかなるものであれ,北海道民の「圧倒的支持」を得ている。これはじつに大事なファクターであって,政治家として影響力・実力のある証左なのである。(Yahoo! のXXなコメント書き込みの夥しさと有権者の確かな選択との間にあるギャップで私が痛感したのは,ネットの偏向というものである。これを根拠に,ネットの書き込みは何者かによる情報操作の可能性も否定できないということである。)

昨年 6 月,アイヌの先住民族決議案が国会で採択されたことも,この政治家のしたたかな活動成果のひとつである。もちろんアイヌ民族の人権擁護とセットで問題提起をしたことに第一義的な意味がある。しかし,もうひとつこの決議の重要な意義は,アイヌを北海道周辺の先住民族として日本国が認知することで,北方四島,樺太等の先住民としての権利をアイヌが本来的にもっていることを国際的に主張しやすくなったことにある。アイヌは日本国に属する民族である,よってアイヌの土地は日本に帰属するという「先住権」ともいえる主張である。もちろん,北方領土返還運動がこれだけで解決できるはずもない。しかし,ロシアという国は多民族国家の難しさを痛いほど知る国であり,「民族に固有の大地」という論理を — アタマでではなく — 身体的に理解しているので,「侵略行為」,「戦後処理」,「歴史認識」などというような高度に政治的な概念に基づく交渉よりも,遥かに真摯に耳を傾ける。こういう事情を知らない人のなかには,日本が実質的多民族国家だということを認めたがらず,鈴木宗男を国賊扱いする無邪気な者もいるようである。

鈴木宗男は,田中角栄のような古いタイプの「利益誘導型」政治家である。そのためか日本のマスコミからは,「ムネオハウス」の利権体質をあげつらわれ,ほとんど「犯罪者」扱いされている。けれども,彼が起訴され政治の第一線から退いて以降,日露関係が台無しになったのは海外の識者も認めるところである(『ニューズウィーク日本版』参照)。その後,日本はロシアと外交らしい外交がまるで出来ていないのである。北方領土返還の一歩手前と言われるまで交渉を進めロシア人から信頼された「疑惑まみれ」の鈴木宗男と,日露交渉においてまったくロシア人に信用されずなんの仕事もしなかった「クリーンなエリート」の川口順子(田中眞紀子と鈴木宗男が失脚したあと実質的に日露交渉を引き継いだ外務大臣)と,いったいどちらが優れた政治家であろうか。

鈴木宗男は鳩山総理から「北方領土をよろしく」と言われたそうである。民主党も彼の業績を評価しているわけだ。日露交渉にまた鈴木宗男が戻って来る。官僚による各種会見自粛にみられるように,新政権はのっけから官僚から「ご指示のとおり言われたことしかやりません」モードの主体性放棄の遵法闘争に応接されているけれども,良きにつけ悪しきにつけ前代未聞のようなことが起こって,しばらくは政治ブームが続くのではないだろうか。

(それにしても,鈴木宗男はあの「アホの坂田」に似た風貌と収賄「疑惑」とで,我が家では嫌われている。これが世の一般家庭の反応かと思うと,ホント,彼が不憫である)