鳩山新首相が国連総会で演説するとともに,特筆すべきことに,オバマやメドヴェージェフなど大国首脳との会談を就任早々果たした。その内実の議論はさておき,この早々の首脳会談の実現は,なによりも各国の新政権への関心ぶりを示している。これに比べると小泉,安倍,福田,麻生の歴代自民党首相は国際社会からほとんど無視されて来たも同然だったのである。小泉さんなんて米国人からはプレスリーを踊った人としかみられていないのではなかろうか。安倍さんなどは,対米従属根性のシッポをあれだけ振っていたのに,米国人には従軍慰安婦問題の国家的責任を否定した「二枚舌セクハラ・ジャパニーズの代表」の印象しかないのではなかろうか。すべて鳩山さん登場のためのお膳立てということか。
私は小沢さんが秘書逮捕事件の直前にぶった日本独自防衛論などを聞いて,民主党幹部があまりに国際情勢を甘く見ているのではないかと思った。鳩山首相も反米とも受け取られかねない「多極化指向」の論説を自身の Web で公開しており,米国の一部マスコミにはかつてない警戒心を巻き起こしているようである(そんな例がこれまでの日本の首相でありえただろうか?)。しかし,本当に「反米」なら自滅路線を行くのは間違いなく,今回の首脳会談では,新首相はあくまで日米同盟を維持・発展することを表明しており,より現実的であったわけである。マスコミ報道は核心の議論をしなかったと斜に見る意見が多かったが,米国からイヤミを言われなかったこと自体が極めて重要な顔合わせだったことを示している。「反米」ではなく,鳩山さんの言うとおり,冷戦終了後の「多極化」情勢を冷静に受けとめて,米国と距離を置いて仲良く付き合って行く,というのが正解かも知れない。そして米国もいまのところそれを理解したふりをしてくれているようである。いまや米国より中国の振る舞いのほうが日本にとって影響が大きいのである。米国も日本よりも中国との関係のほうが大事なのである。こうした事情を踏まえると,米国べったりで共倒れするより,中国と政治的・経済的に戦いつつ協調して行くほうが私としては納得できる。米国もこういうところを敏感に察知して,鳩山さんとなら対米従属の元カノ安倍さんよりはまともに話をする気になっているのかも知れない。飼い犬ならエサを与えて「お手」と命令するだけかも知れないが,相手が人間なら話をし,また聞き手にも回るわけである。
国連演説,会談の報道を見る限り,海外には好意的に受け取られたようである。温室効果ガス削減目標について,国連総会で公約する必要があるのか少し疑問であったが,核兵器削減の先頭に立つとの意思表示ともども,世界の日本への評価が相当アップしたのは疑いがない。できるかどうかいかに疑問符が湧いて出ようが「約束」という形で意思を明言することが,どれだけ自国民の緊張感を掻き立てただろうか。結構感動するものがあった。私のような普通のサラリーマンでも,あそこまで明言されるとやらなくちゃと思うものである。「ただのカッコつけ」という人もいるかと思うが,日本の政治家が世界に向けてここまではっきり主張するのをこれまで見たことがあるだろうか。私は民主党の体質にも政策にも支持できないものを感じているけれども,国際社会において日本が「経済」ではなく「政治」で何かを印象づけたとはじめて感じたのである。日本が経済力,マンガやアニメ以外で一目置かれるなんて「事件」である。
「美しい国」などと言い,米国を除く周辺国に言いたいことを主張すると公言したが,実質は米国にとって鬱陶しい元カノ役でしかなかった安倍さん,米国の関心を買いたいために中国,ロシア,韓国,北朝鮮の(要するにアジアの列強の)悪口ばかりを国民に吹き込んでいた自民党政権と比べると,日本は外交において本当に独り立ちをはじめたのだとの印象を受けたのである。少なくとも,そのように世界に向けて宣言してしまった。この点がかつての村山非自民政権との大きな違いでもある。もちろん,民主党政権ははじまったばかりであり,これから吹き出す問題をどう乗り越えて行くかが勝負である。
民主党は大勝したけど,国民はただ自民党政権にイヤ気がさしたというのが大勢であろう。マニフェストにはあまり関心がないようである。にもかかわらず民主党はマニフェスト実現をことあるごとに繰り返している。前途多難である。でも成果をあせらず,党として主張する政策をまずは実行してみてほしいと思う。選挙で選ばれたんだから。政権交代をしたのだから浮かばれる者,あおりを食う者が出るのは当たり前である。山ツ場ダム問題とかかしましいけれども,優先順位を国民にきちんと説明して判断すればよいのではないだろうか。