もてる男の三つの条件

海外のジョークには三題話というのがある。例えば —

ある黒人のホームレスの前に,神様が立ち現れ,三つの願いをかなえてあげようとおっしゃったらしい。ホームレスは迷うことなく,叫んだと伝えられています。
「白くなりたい! 女たちの話題の的になりたい! いつも女の股ぐらにいたい!」
たちまち男の姿は跡形もなく消え失せ,路上には小指大の白いタンポンが転がっていたのだそうです。
(米原万里『ガセネッタ&シモネッタ』文藝春秋, 2003, p. 25)
 

ものごとに立体感をもたらすにはその属性を二つではなく三つ準備する必要があるということだろう。音楽でも三つの音ではじめて和声が成立する。女にもてる男の特性にも,三つの条件を上げるのが万国共通のようである。日本では,「男は三高 — 高収入,高学歴,高身長」。ロシアでは,Золото в кармане, серебро на голове и сталь под пахом. —「ポケットに金,頭の上に銀,股ぐらに鋼鉄」(要するに,金持ち,ハゲならぬロマンスグレーの髪,何度ヤっても衰えない鋼鉄のような魔羅の持ち主,ということ)。これは米原万里の本で知った和文から私なりに想像して仕立てたロシア語である (彼女のどの著書に書いてあったのか失念してしまった。ロシア語はこれでよい?)。ロシアと比べると日本の三条件はなんともジョークの精神に欠ける。日本の女はなんとも面白みに欠けるんだということをありありと印象づけてしまう。

ところで,このロシアにおける三つの条件は,米原万里が作ったロシア語教科書に訳文なしに掲載されていたそうである。この教科書を私は探しているのだけど,見つけられないのが本当に残念である。言語を学ぶことはその話し手の国民性を学ぶこと,というポリシーがこの教科書には伺えるような気がする。私が大学時代にお世話になったロシア語教科書は木村彰一先生の名著ではあったけれど,こういうジョーク精神はなかった。