北京五輪のあいだに,極めて不安な事件がふたつ起きている。グルジアの南オセチア侵攻とロシアの軍事介入。もうひとつはパキスタンの親米派ムシャラフ大統領の辞任。いずれも米国にとって逆風の事態である。
とくに南オセチアの件は,米国とロシアの緊張が高まり再び冷戦の到来かという不安を掻き立てた。米国はマスコミを使って極悪ロシアのイメージを作り上げるのに必死である。ロシア軍の攻撃で嘆き悲しむグルジア人の姿や,女性レポーターがロシア兵によって銃撃される瞬間の — ヤラセの臭いのぷんぷんする — 「衝撃的映像」ばかりが「西側に」報道されているが,グルジア軍の急襲によって 2,000 人以上が殺された南オセチア民間人のことはあまりフォーカスされていない。米国,NATO による情報操作は明らかなのである。
しかし,そもそも先制攻撃をかけた — つまり悪役に相応しい — のはグルジア軍である。「One World. One Dream」の北京五輪開会式の前夜を狙うなんて,相当の鼻摘み行為である。そして米国は,サーカシヴィリ大統領の後ろで隠然と糸を引いている以上,また,グルジア軍があっという間にロシア平和維持部隊に撃退されてしまったことで,世界的に無様な姿をさらしてしまっている。南オセチアはコソボと同じではないか。コソボ独立を強力に支持した米国は南オセチアに関してはまったく逆の行動に走っているのである。確かにロシア軍の「やり過ぎ」にも警戒が必要だけど,コソボ独立を支持しておいて — これだって親露セルビアへの米国・NATO 諸国の敵対的行動の現われである —,南オセチアへのグルジア軍進攻の非道をロシアの軍事介入への批判で混ぜっ返す「西側」の世論操作は,まったくもって自己中心的ではないだろうか。ロシア側のいい分が面白い。「グルジアの行為は民族浄化であり,許されてはならない」— これはコソボ独立を支持した側の主張そのものではないか。
パキスタンの件は,米国のアフガニスタンでのテロ戦争に危険な影響をもたらしそうで怖い。イラク戦争で米国が疲弊しているところに,これまでのようなパキスタン政府の協力が期待できなくなりそうで,アフガニスタンの情勢がさらに悪化するのではないかと想像する。