札幌大学紀要論文拝受

札幌大学でロシア語を教えている友人 H さんから,昨日,論文の抜刷をいただいた。彼女は私の大学の後輩である。『19世紀ロシア女性の乗馬に関するノート:晴れ着としての乗馬服』 (札幌大学外国語学部紀要,『文化と言語』第67号,2007.11.30)。

19世紀ロシア女性の乗馬服の文化史的観点から,プーシキンなどのテキストの意味を探ろうという大きな意図を感じさせる論文であった。こうした世態風俗と文学表現との関わりを明らかにする仕事は,地味で骨の折れる長く困難な道である。彼女も大きな海に乗り出したなあと感慨深かった。今後の展開が楽しみだとの感想をメールで書き送った。

プーシキンの『エヴゲーニイ・オネーギン』の第一章には,女性の足のエロティックな魅惑を歌う有名なくだりがある。作家・文学研究家ヴラジーミル・ナボコフはここに詩人の足へのフェティシズムを指摘しているくらいである。さらに第五章では,可愛い足を歌うのはもうやめにする,と詩人は書いている。H さんはここに注目し,可愛い足への執着の変化が乗馬の女性の服飾の観点から説き明かせないかとの期待を覗かせている。私自身の考えでは,女の可愛い足への詩人のオマージュは — 詩人の性的嗜好を抜きに考えるとして — 世態風俗的属性よりもむしろ抒情詩のジャンル規範ないし神話的イメージに立脚している。だけど,文化史的観点で文学テキストを検証してみようとする彼女のアプローチは,研究者の姿勢として正当かつ不可欠である。

H さんはこの論文において結論を急いではいない。本論テーマの今後の掘り下げを通して,面白い発見を提示してくれることを期待したい。

 
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アレクサンドル・プーシキン
木村 彰一 訳
講談社 (1998/04)