中学一年生になる娘が夏休みの読書のため面白い本を貸してくれという。私は,いろいろ悩みつつ,ロシアの二人組みの作家イリヤ・イリフとエヴゲーニイ・ペトロフによる『十二の椅子』を与えた。これはソヴィエト時代初期の抱腹絶倒の悪漢小説=ロマン・ピカレスクである。古今東西の小説でげらげら笑いながら素敵な物語を読んだなあというものは,これをおいてあまり記憶にない。私は大学の図書館で新潮社版を借りて読んだのだが,二十年以上昔の学生時代からこのかた,この古典的ユーモア小説が再版されないのが不思議でならない。古本を探しまわって筑摩書房世界ユーモア全集所収の巻を手にいれたのだ。
このまえ岩波の『図書』だったと思うが,「私の三冊」という題目で著名人の心に残るベストスリーを特集していた。私なら何を挙げるだろうか,とやはり思案するもの。プーシキンの『エヴゲーニイ・オネーギン』,日影丈吉の短編集,ジュリアン・グラックの『アルゴールの城』,アレクサンドル・グリーンの『波を駆ける女』,ボリス・パステルナークの『ドクトル・ジバゴ』,マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』,ライナー=マリア・リルケの『マルテの手記』,アーサー・マッケンの『夢の丘』,辻邦生の『背教者ユリアヌス』などなど,私の青春時代,魂を満たしてくれたさまざまな名作が思い浮かぶけれども,この『十二の椅子』も元気印に輝く一冊で捨てがたい。
さて娘がどんな感想を示すか興味深い。ちょっと中学生にはこの作品の冗談が解らないかも知れない。
Amazon マーケットプレイスに古書が出品されているようなのでリンクを付けておく。ぜひ読んで大笑いしていただきたい。