『数学でわかる社会のウソ』

芳沢光雄著『数学でわかる社会のウソ』(2007, 角川oneテーマ21)を読んだ。数値と論理的思考とでものごとを追究する姿勢を説く。この先生の著書はほかに『数学的思考法』を読んだが,どれも教育的視点の真摯なところに共感する。

日々のテレビのニュースや新聞記事が報道する問題論は数値や事実の拾い方を注視しないと鵜呑みにしてしまう。「景気回復」の呼び声は,数値をきちんと分析するとそのまやかしが判明する,などの解説が面白かった。

日本経済の状況がいまさらのように身に沁みて,暗澹たる思いに駆られた。本書によれば,1965年では0.2兆円だった日本の公債発行額は,その後増え続け,私が就職した1988年には156.8兆円,2007年末には547兆円となる見込みであるという(p.28)。税収が60兆円弱。誰がいったい年収の9倍以上の借金をするだろうか。私たちが必死に働いてきたこの二十年間で公債が400兆円も増加している。国の借金を増やすために働いてきたのか。2001年に小泉さんが首相になり,「小さな政府」,「構造改革」などと叫んで人気を獲得した。ところが2001年から2006年の間に150兆円も公債が増加しているのが事実である。こういうのを「ウソ吐き」というのではないだろうか。その借りたお金はどこに消えたのか。

本書についてもうひとつ。ベンフォードの法則というのをご存知だろうか。浅学にして私は知らなかったが,本書の教えるこの面白い観測事実に感嘆してしまった。世の中のありとあらゆる数値の最初に現われる非0数字の出現頻度は,1, 2, 3, ... 9の順で高いそうである。著者はこれを新聞の株価欄の例で具体的に示して見せてくれるだけでなく,あの大問題になった耐震構造設計書偽造などのポイントチェックに使ってみることを提案している。数値がたくさん記述されている文書の「不自然さ」の確認にも使えるというわけである(pp. 98-101)。この世界は面白いことがやっぱり多い,と思うことしきり。