misima メンテナンス

久しぶりに misima をメンテナンスした。カ行変格活用「来る」の命令形「来い」が「来ひ」に誤変換されるのに気づいたからである。茶筌のドキュメントを見るまでもなく,この種の命令形に「い」が接続するパターンを考えると,サ行変格活用「す」の「勉強せい」のような用例があることにも思い至る。

misima では旧仮名変換処理において「わいうえお」を「はひふへほ」に変換する「本則」なる規則を持っている。変換してはならない文法・語彙パターンを判断しなければならないからである。国文法や歴史的仮名遣いの書籍を参照して,このあたりの規則を洗い出して仕様を決めたのだが,どうしても漏れが出る。2004 年に公開してからかなり経つ間にユーザから誤りを指摘いただいたことは一度もないけれど,このように自分で発見して赤面することはしばしばであった。国語に関わる問題なので計算機変換にせよ誤りは恥ずかしいものがある。その都度修正を繰り返してきて,その度に日本語表記の奥深さを知らしめられてきた。今回は茶筌解析結果が命令形i接続のものを変換対象規則から除外すればよく,対策は簡単であった。

misima はもとより私自身が歴史的仮名遣いで書きたいがためではなく,かなり長文の大正文学を引用する必要性に迫られたために拵えたツールに過ぎない。また FreeBSD の Wnn では仮名漢字変換を行うに際して,祈禱書の「禱」など Unicode にしかない旧字体の入力ができず,なんとかならないかと考えたためである(だって「祈祷書」という表記を私は印刷物で見たことがないのだから。私は森鷗外の「鴎」の字体を見て悲しくなるほうである)。インターネットを少し漁っても私の意図する機能を持つものが見つからず,茶筌を使えばまあ 7〜800 行くらいか,と多寡を括って自作したのである。実はそんなに甘くはなかったわけであるが。

私のサイトはこれまでロシア語 TeX やプーシキン関係のプログラムに血道を上げてきた。misima はこのような思いつきで作成し,他人様の同じ苦労を軽減できればと思い,公開したのだけれど,こちらのほうが意外にも「圧倒的に」アクセスが多くびっくりしてしまったのである。いまだに解らないのは,私と同じ課題で困っている人はそう多くないと思うのに,どういうニーズでユーザが misima を利用するのかということである。インターネット上にも旧字体,歴史的仮名遣いで文章を発表している方がおり,そういう方々は独自の辞書をもってすらすら入力しているのだろうから,misima なんて必要ないはずである。うーむ。

冗談ソフトだと思われているとしたら悲しい。