スラヴ学研究者向け LaTeX 文献引用マクロ citare.sty 使用法

スラヴ学研究者向け LaTeX 文献引用マクロ citare.sty について,奥村先生の TeX Wiki でアナウンスしてしまった。誰かのちょっとした役に立つと,私の労苦も報われるというものだ。citare.sty の使い方を書いておく。

基本的使用方法

プリアンブルに \usepackage[<option>]{citare} を指定する。citare.sty は Babel 多言語環境を前提としているので,Babel パッケージの指定の後に書いておく。

<option> には opcitauthorrm が指定できる。前者は op. cit. 出力を行う。後者は op.cit. 出力に際して出力される著者名をローマン書体(立体)で出力する。

原稿は,まず thebibliography 環境 \bibitem 命令によって参考文献の一覧を作成しておく。このとき citare.sty\bibauthor 命令で著者名をマークアップしておく。

\begin{thebibliography}{99}
  \bibitem{lotman1}%
    {\selectlanguage{russian}%
    \textit{\bibauthor{Лотман Ю. М.}}~
    Роман А. С. Пушкина <<Евгений Онегин>>.
    Комментарий.
    Пособие для учителя.
    Издание второе.~
    Л.: <<Просвещение>>, 
    1983.}
    .....
  \bibitem{curtius}%
    {\selectlanguage{german}%
    \bibauthor{Curtius E. R.}~
    \textit{%
    Europäische Literatur und lateinisches Mittelalter},
    Bern (Francke),
    ${\empty}^{2}$1954.}
    .....
\end{thebibliography}

文献参照は通常の LaTeX と同様に \cite 命令を使う。引用文献の仕方によって次のとおりの出力を行う。

  1. 文献が初回引用の場合,\cite 命令の位置に,当該 \bibitem で指定した文献内容をすべて出力する。
  2. 文献引用が直前と同じものなら ibid. 出力を行う。
  3. 文献引用が二回目以降で,直前とは異なる文献で,かつオプションに opcit が指定されている場合,\cite 命令の位置に著者名,op. cit. を出力する。
  4. \cite[#1]{#2}#1(参照頁などの情報) を上記出力の後にカンマで区切って出力する。#2 は文献のキーである。

文科系論文は引用文献を注で示すことが多い。その場合は,\footnote{\cite[pp.~10]{文献キー}} のように指定する。ロシア語文献の引用例を図 1. に示す。

citare-1.png
図 1. ロシア語文献引用例

citare.sty\cite を指定した時点の Babel 言語環境をチェックして選択言語に応じた ibid., op. cit. を出力する。標準値は次のとおり。図 2. も参照。変更する場合該当のマクロを再定義する。

ibid. 出力
ロシア語: Там же; ドイツ語: ebd.; 日本語: 同書; その他: ibid.
op.cit. 出力
ロシア語: Цит. соч.; ドイツ語: a.a.O.; 日本語: 前掲書; その他: op. cit.
citare-2.png
図 2. 言語環境による出力の差異

ロシア語の文献引用は,著者名が斜体,書名は立体が多いと思う。作者(私)の必要性から op.cit. 出力では,著者名は斜体となっている。しかし西欧では著者名は立体,書名を斜体とする場合が一般的と思われる。後者に合わせるには,\cite を発行する前に \setcitface{roman} とするか,パッケージオプションに authorrm を指定しておく。もちろん初出時に出力される文献名は \bibitem での書体指定が有効である。

ptexlive 処理上の注意事項

citare.sty を ptexlive でロシア語,ギリシア語とともに用いるときは注意が必要である。ptexlive はロシア語,ギリシア語も UTF-8 直接入力のまま処理可能であるが,これらを JIS X 0208 として扱うため,全角文字で組版してしまう。これを回避し,欧文としてロシア語,ギリシア語を出力したい場合,文字を ^^十六進数 に変換しておけばよい。たとえば,б ならば ^^d0^^b1 に(UTF-8 符号化においてキリル文字は 2 オクテットで表現されるので,1 オクテットごとに ^^ を付加しなければならない)。ところが,この形式だと citare.sty\cite 命令でエラーとなってしまう。これは citare.sty の作り込みが不十分なためである(citare.sty のなかで一文字ずつ走査する際に ^ が数式中の上付きと解釈されてしまう)。

citare.sty on ptexlive でロシア語を欧文として組みたいとき,この問題を回避するには,キリル文字を ^^十六進数 形式ではなく \cyrxx 命令で記述すればよい。たとえば,б ならば \cyrb に。あるいは,OT2 キリルフォントエンコーディングを選択して,アスキー翻字形式で記述するのでもよい。いずれにせよ,キリル文字を直接原稿に書いて ptexlive 上で citare.sty を使用したい場合,Utf82TeX -r オプション付き で前処理しておけば,キリル文字が \cyrxx 命令に変換され,問題なく処理できる。

% utf82tex -r < UTF-8キリル文字原稿 > 変換済み原稿

citare.sty を欧文用 LaTeX (latex, pdflatex コマンド) で処理する場合は,この問題はない。

サンプル原稿のタイプセット

citare.sty を用いたサンプル原稿 citareexp.tex を以下に示す。ここではロシア語を T2A エンコーディングで処理する指定になっている。UTF-8 で直接ロシア語,日本語,ドイツ語を記述している。Babel 言語オプションに拙作の nippon (citare-1.2 アーカイブに添付されている) を指定しているが,これは japanese でもよい。

% -*- coding: utf-8; mode: latex; -*-
% sample for citare.sty
\documentclass[b5paper]{jsarticle}
\usepackage[utf8]{inputenc}
\usepackage[T2A,T1]{fontenc}
\usepackage[russian,german,italian,nippon]{babel}
\usepackage[opcit]{citare}
\begin{document}
 
{\large ロシア語文献引用}
 
\vspace{11cm}
\selectlanguage{russian}
Пушкинская трактовка более бытовая: ничего вне обыденной реальности
в сюжет не вводится --- и фольклористики более точная:
гадание <<на зеркало>> у Пушкина происходит в бане, 
а не в светлице, как оно и должно быть.
\footnote{\cite[С.~268]{lotman1}}%
 
Таким образом, пушкинское <<подобие того-сего>> могло 
восприниматься как ироническая отсылка к литературному штампу 
<<шампанское --- молодости>>.
\footnote{\cite[С.~253]{lotman1}}%
 
Принцип противоречий проявляется на протяжения всего романа
и на самых различных структурных уровнях.
\footnote{\cite[С.~30]{lotman2}}%
 
Не придавая этому высказыванию слишком буквального значения,
следует все же подчеркнуть его принципиальную важность.
\footnote{\cite[С.~18]{lotman1}}%
 
\clearpage
\selectlanguage{nippon}
{\large その他の言語}
 
\vspace{10cm}
\setcitface{roman}%
\selectlanguage{german}
1. Curtius \verb|\cite| Germany\footnote{\cite[S.~10]{curtius}}%
 
2. Curtius \verb|\cite| Germany\footnote{\cite[S.~20]{curtius}}%
 
\selectlanguage{italian}
3. Praz \verb|\cite| Italian\footnote{\cite[p.~30]{praz}}%
 
4. Praz \verb|\cite| Italian\footnote{\cite[p.~40]{praz}}%
 
\selectlanguage{nippon}
5. Jakobson \verb|\cite| 日本語\footnote{\cite[~50--9頁]{jakobson}}%
 
6. Jakobson \verb|\cite| 日本語\footnote{\cite[~60頁]{jakobson}}%
 
\selectlanguage{german}
7. Curtius \verb|\cite| Germany\footnote{\cite[S.~70--2]{curtius}}%
 
\selectlanguage{italian}
8. Praz \verb|\cite| Italian\footnote{\cite[pp.~80--9]{praz}}%
 
\selectlanguage{nippon}
9. Jakobson \verb|\cite| 日本語\footnote{\cite[~90頁]{jakobson}}%
 
\clearpage
\selectlanguage{nippon}
\begin{thebibliography}{99}
 \bibitem{lotman1}%
         {\selectlanguage{russian}%
         \textit{\bibauthor{Лотман Ю. М.}}~
         Роман А. С. Пушкина <<Евгений Онегин>>.
         Комментарий.
         Пособие для учителя.
         Издание второе.~
         Л.: <<Просвещение>>, 
         1983.}
 \bibitem{lotman2}%
         {\selectlanguage{russian}%
         \textit{\bibauthor{Лотман Ю. М.}}~
         Роман в стихах Пушкина
         <<Евгений Онегин>>.
         Спецкурус.
         Вводные лекции в изучение текста.
         Тарту,
         1975.}
 \bibitem{curtius}%
         {\selectlanguage{german}%
         \bibauthor{Curtius E. R.}~
         \textit{%
         Europäische Literatur und lateinisches Mittelalter},
         Bern (Francke),
         ${\empty}^{2}$1954.}
 \bibitem{praz}%
         {\selectlanguage{italian}%
         \bibauthor{Praz M.}~
         \textit{%
         La Carne, la Morte e il Diavolo nella Letteratura romantica},
         1966.}
 \bibitem{jakobson}%
         {\bibauthor{ロマーン・ヤーコブソン,川本他訳}~
         『一般言語学』,
         みすず書房, 東京,
         1973.}
\end{thebibliography}
 
\end{document}

ptexlive with etex で上記原稿を処理し,PDF を生成する端末入力は以下のとおり。utf82tex -r でキリル文字を \cyrxx 命令に変換している。

% utf82tex -q -r < citareexp.tex > citareexp.utf
% eplatex citareexp.utf
% eplatex citareexp.utf
% dvipdfmx citareexp.dvi

TeX 原稿 citareexp.texタイプセット結果 citareexp.pdf を掲載しておく。

citare.sty の詳細な仕様については,ドキュメント『スラヴ学研究者論文用文献引用マクロ citare.sty Ver. 1.2』を参照いただきたい。