russianb.ldf

LaTeX Babel ロシア語言語定義 russianb.ldf を OT2 アスキートランスクリプションで使うと,enumerate 箇条書き環境の (a) (b) (c) などラテンアルファベットで出力されるべきラベルがロシア文字に化けてしまう。はじめはロシア語なんだからこうなるのかと思っていたが,代表的な LaTeX キリルフォントエンコーディングである T2A (キリル文字はシベリアなどの少数民族が使う文字を含めると夥しい数があり,このほか T2B, T2C, T2D, XS などなどさまざまなフォントエンコーディングが存在する) で組むとラテン文字で出る。よくよく考えると,(а) (б) (ц) はロシア語アルファベットの順番としておかしいので,文字化け(要するに,ただのバグ)と考えた方がよさそうだと自分なりの結論にいたった。

先日作成した OT2 と T2A のハイフネーション切替えマクロと,この問題の対策コードとを併せて,ロシアの CyrTeX メーリングリストに報告した。もう少し OT2 にも気を使ってよという思いからである。OT2 キリルエンコーディングがもはや歴史的遺物となりつつある本国ロシアでは,案の定,いまさら OT2 でもあるまいにとの冷淡な反応がまず返ってきた。これは当然である。OT2 は例えてみれば,昔の電報みたいな書記方式であって,普通のロシア人の立場なら,まじめにサポートしようなどと誰が思うだろうか。

ところが,一方で OT2 を強く擁護してくれるひとも出てきた。それは psgreek というギリシア語 Type1 フォント・パッケージの作者で,その筋では有名な TeXnician である。多国語のタイプセットに関心をもっている方だと私には推察される。彼の主張は,アスキートランスクリプションで入力できる OT2 は外国人にとって使いやすいだけでなく,T2A に含まれない革命前の旧正書法の文字 ѣ (ять), ѵ (ижица), ѳ (фита), і (и с точкой) を備えているので,「現代ロシア語」においても意義がある,というものだった。おそらくロシアにも,日本における歴史的仮名遣い擁護派のように,旧正書法にこだわりをもっているひとがいるんだな。

いずれにせよ,いままで私の OT2 に関連する発言は無視されるに等しかったが,今回その意義を認めてくれる本国人もいるのだということを知り,うれしくなった。というのも,OT2 がなくなってしまうということはなさそうだと確信したからである。