藤原定家の写本が冷泉の文庫から新たに発見されたという。『更科日記』などにみえる定家の手はごつごつした勢いがあって,テレビ画面に写し出されたその写本の映像は,私のような素人でも,ああ,あの筆跡だなとみてとれた。原本をすらすら読める国文学者の素養に,私はつくづく尊敬の念を覚える。
昨年十一月に大手町の出光美術館で平安・鎌倉の和歌の写本などの展覧会を観た。行成,佐理,定家や公任の自筆文書を間近に眺めることができた。国文をやった妻は少し古文書が読める。大学の卒業論文の口頭諮問では,古典の印影本を学生に見せて,音読させ,作品名と誰の手になるものかを問うような課題があったという。三筆,三蹟などの能書家,定家などの大家の印影の知識は教養のうちなのである。ちょっと見直してしまった。