LaTeX 原稿を UTF-8 で記述するために Utf82TeX というツールを作って久しい。はじめは,Babel という LaTeX の多言語基盤パッケージを組み込んだ日本語 pTeX 環境で,ロシア語と古典ギリシア語を扱えるようにする簡単なフィルタスクリプトであった。昨年末,ユーザ自身が外部テーブルとして変換定義を用意できるようにしたり,斎藤さんの OTF パッケージ向け変換機能を追加したりした。幸い奥村先生の TeX Wiki 『pTeX と多言語処理』で紹介され,そのためか Utf82TeX の説明ページを訪れてくれる方が増えた。
しかしもともとこのツールはあくまで自分のために準備したものである。他人にとっての使いやすさはほとんど考慮していない。「Utf82TeX に興味を覚えたが難しそうなのでやめた」といった書き込みをある TeX 関連のサイトで目にして,残念に思ったことがある。本の作者が読者を大切に思うのと同様に,このささやかなツールを使いたいと思ってくれるひとは私にとってありがたいのである。
使うための準備(Perl やらエディタ,フォント)をもう少し簡単にし,操作も易しいものにできればよいのだが,そのためにはツール本体を作成した労力のおそらく三倍を要する。商品プログラムは実は,それを特徴付ける本質的な機能よりも,例外処理やこうしたユーザインタフェース,インストーラのチューニングにより多大な工数をかけているものである。私にはその時間がなく,ほかにもやりたいことが山ほどある。ソフトウェアは有名になり一人歩きを始めると,どこかの奇特なひとが直してくれたりする場合がある。そんなことを望めない Utf82TeX は,いまのところユーザに負担をかけるしかない。そのぶんドキュメントはきちんと書いたつもりである。