五月待つ

風薫る五月になった。天気はいまいち。茨城・筑波では恐ろしい竜巻の被害が出た。

五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする,という古今集の名歌があって,五月というと私はすぐ,初夏の恋の匂いと懐旧心のいりまじったこの歌を思い出し,少々扇情的気分になってしまう。でも,旧暦の五月は太陽暦では六月半ばくらいなので,五月の薫風の清々しさのイメージからはかなりずれている。

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小沢さんが無罪になり,党員資格が復活されたと思ったら,「指定弁護士」さん,何を血迷ったのか控訴。ウソを調書に書いてブタ箱にブチ込もうとした検事が起訴されないのに,政治資金報告書に誤記したかどで控訴までされ再度被告席に立たされるこの国。一般市民による検察審査会の強制起訴は民意の反映だって? なら,このウソツキ検事は何故に強制起訴されないのか? 尖閣諸島海域で海上保安庁巡視船に体当たりした中国漁船船長は何故に強制起訴されないのか? 民意だとかなんとかいうのだろうが,検察審査会なんて制度は,実は国民を舐めた制度なのである。

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プーチンが大統領に正式就任した。市民による反プーチンデモで運動家が逮捕されたりしたために,プーチンは独裁とのバッシングを受けている。でも,かつてのロシアを知る者がつらつら鑑みるに,反政府デモが許されるようになっただけ,ロシアも普通の国になったわけである。中国なんかに比べてずっと民主的であることを考えるべきである。デモで逮捕者が出るのは米国だって普通ではないか。日本人の私としては,give and take をきちんと弁えた政治家プーチンの大統領復帰により,北方領土交渉,エネルギー問題解決の進展に期待したい。

一方,フランスではサルコジさんが大統領選挙に敗れ,緊縮財政の動きにノーの民意が示された。ギリシアもしかり。欧州の財政危機はしばらく収束しそうもない。1 ユーロがいまや 100 円になろうとしている。

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猫ひろしさんがカンボジア国籍を取得し,ロンドン五輪マラソン・カンボジア代表に内定したのに,競技連盟かなんかの裁定で出場が取り消された。姑息な手段で五輪出場を目論でいるとの批判も大いにある。でも,国籍を変えてでも五輪やワールドカップに出たいという情熱は理解できるし,そういう方法の可能性が禁じられていない以上,猫さんを非難する理由はない。バカは彼が日本人であることをやめたことに毒づいているようだ。私からすれば,個人には国籍を変える権利があり,ナショナリズムゆえの心情がいかなるものであれ,これを理由に彼を非難してはならない。むしろ,競技連盟かなんかの裁定こそがアンフェアである。ダメならはじめからダメという規則を明らかにしておくべきなのだ。人の「正当な」(法で禁じられていないという意味で)努力を踏みにじるというものである。

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と,ま,プーシキン・コンコーダンス・プログラム新版に血道を上げている間に,世の中も確実に変貌を遂げていた。ノホホンと相変わらずなオレ。阪神タイガースも相変わらずのようだけど。対戦相手がちょっとよい投手だとまったく打てない,穴だらけの「強力」打線。だから私は阪神が好き。責任感絶大でチャンスに凡退する新井選手がとくに贔屓なんである。卒のない中日なんて,トヨタやパナソニックみたいで大嫌いなのだ。私は日立やホンダのような頭の悪いメーカーが好きなのだ。

プーシキン・コンコーダンスに異常終了するバグがあり,原因がわからず苦労した。今日仕事から帰宅して gdb シンボリックデバッガで丹念に調査してようやく原因が判明した。コンコーダンスで条件にヒットした単語の位置情報を再帰的関数でスタックする処理があり,信じられないことだが,大量の情報,大量回数の再帰ループでスタックがパンクしてしまったのである。再帰でない方法に変更し,処理可能行数に制限をかけた(だいたい,電子コンコーダンスで数万行のコンテクスト出力を必要とするユーザはいない)。

先日 Facebook でこのプログラムのリンクを公開したら,作曲家・ドミトリ・スミルノフがいろいろ試験してくれ,あちこちにリンクを設置してくれ,大いに誉めてくれた。そして,何と,ロシアの有名な女流詩人であり文学研究者であるオリガ・セダコヴァ(私も彼女の二巻本選集を大切にしている)の目にも留まり,コメントをくれた。「プーシキン全作品の語彙分析ツールは,ロシアでは 4 巻本のプーシキン語彙辞典しかないのに,日本人がオンラインツールを作ってくれた」とまでうれしいことを書いてくれた。彼女がシェアしてくれたおかげで,彼女のファンから大量のアクセスが押し寄せて来た。で,上記のバグも見つけることができた。こういう一流の人たちが関心をもってくれることが,労苦の何よりの報いである。コンコーダンスの意義を理解できる人は研究者でもごくごく限られており,このプログラムは私しか使わないだろうと思っていたが,無駄ではなかったようである。

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シンボリックデバッガ gdb 活用の私の座右の書籍をあげておく。いずれもプログラミングにおけるデバッグ・テクニック,有用ツールの最良の指針を示してくれる良書である。

Debug Hacks -デバッグを極めるテクニック&ツール
吉岡 弘隆 大和 一洋 大岩 尚宏 安部 東洋 吉田 俊輔
オライリージャパン