女子サッカー日本代表のロンドン五輪アジア予選突破が確定した。若いチームのスピードと高い精度とに苦しめられて,日本はなんとか北朝鮮と引き分けたのだが,オーストラリアが地元・中国を降してくれたおかげで二位以内が確定した。北朝鮮は残り一試合・超格下のタイとの対戦では余裕しゃくしゃくで勝利するだろうから,アジア代表は日本と北朝鮮という結果になりそうである。北朝鮮はドーピング問題で選手を大幅に入換えた若年即製チームのわりにはめっぽう強かった。恐るべし。二,三年先にはなでしこジャパンを追い越しているかも知れない,日本も若い世代をきちんと育てなくちゃ — 日本 VS 北朝鮮戦は,そんなことをつらつら思わせてくれた。いや,両チームとも,おめでとうございます。
なでしこジャパンはワールド杯優勝の大ブレークのためにマスコミに追いまくられて肉体的・精神的に疲労困憊状態だったはずである(「メディアに追っかけられてなでしこたちはクタクタ」なぞと,そのメディアが報じているんである — 恥ずかしい商売とはこれの謂)。世の論調も「世界一なんだからアジア予選突破なんて当然」みたいな間抜けな期待感があった。中国現地では,練習もゴルフ場をあてがわれスパイク着用を禁止されるなど,信じられない嫌がらせにさらされた。中国の競技場のピッチは日本のそれと比べると整備が行き届かず,試合そのものにおいてもボコボコのピッチのために彼女たちの得意な速いパス・サッカーの強みが活かせなかった。各国は世界女王に対して研究を重ねチャレンジして来た。11 日間に 5 試合という気違いじみたスケジュール。こういう逃げ場のない強烈なプレッシャーのなかで彼女たちは予選突破を果たしたわけだ。試合内容云々なんてどうでもよい。ここでまたなでしこジャパンはもう一皮剥けた感がある。私は彼女たちへの尊敬の念をいま再び新たにいたしました。素晴らしい。男子代表もこうなってくれよー。あんたたち「サムライ」でしょ?
地元・中国はホームという「圧倒的な」地の利があったにもかかわらず,残念でしたね。日曜日,日本 VS 中国のゲームは,どうなるんだろうか。お互いフェアプレーで最後を締めていただきたいと願うばかりである(余裕,余裕)。
私の会社は世界中に事業を展開しているので,海外のテロ事件,治安状況に対してきわめて敏感である。社員の安全と事業展開上のリスク回避のために,「リスク対策情報」として各国の世情をイントラネットで発信している。このサイトがけっこうよくできている。ロンドンやノルウェー,インド・ムンバイのテロ事件,7 月末に「2ちゃんねる」でなされた東京駅大量殺人予告(幸いにも,これは匿名虫けらパンピーがなすに相応しい,ただの便所の落書きに過ぎなかった)など,危険性の高いトピックをメール緊急速報するだけでなく,共同通信社クレジット(産經新聞などの三流マスコミじゃないよ)の各国ニュースを国別に定常的に知らしめてくれる。
私は仕事で海外に行くという部署にいるわけでないので,あんまりこのイントラ情報が業務と直接関わりがあるわけではないのではあるけれども,面白いのでロシアの情勢などを頻繁にチェックしている。
日本国政府官僚と同様,いまだに冷戦時代の世界観から抜けきれない日本の大手マスコミにとって,ロシアはいまだに「仮想敵」であって,目にするロシア関係のニュースでは,まず間違いなくロシアの「悪い」ところしか報道されない。たいていは北方領土絡みの「反日的」動向に限定されるとみてまず間違いない。ま,それは日本国政府の思惑と一致しているし,国民(というか,ネット「右翼」)もそれに躍らされていても何の損も自覚しないですむ(この点で,日本というと竹島に結びつけて日本を非難する韓国メディアとまったく同じレベルである)。
しかし,共同通信社報知に基づく「リスク対策情報」でここ最近のロシアと日本との交渉をトレースしていると,もちろん北方領土問題がメインなのではあるけれども,東日本大震災を巡ってロシアが重要なメッセージを日本に発信していることがよくわかる。以下,ちょっとピックアップ。
震災直後は,菅総理がなした「不法占拠された北方領土へのメドヴェージェフ大統領訪問は暴挙」発言(「外交」をしないくせに強がることだけは抜かりない,ただの人気取り発言)が引き起こした領土問題を巡る日露攻防は「休戦」状態になった。3.15 に予定されていた「若き親衛隊」北方領土訪問等が中止になったりした。ちなみに,このとき「美しすぎる女スパイ」として米国とのスパイ交換で帰国したあのアンナ・チャップマンさんもこの一行に含まれていたそうである。ちなみに,ロシアではいま,アンナ・チャップマンさんなどロシアの美人スパイたちを集めた,歌って踊ってロシア国民を楽しませてくれるグループ КГБ48 (カー・ゲー・ベー・ソーラク・ヴォーシミ,つまり KGB48 ケー・ジー・ビー・フォーティ・エイト) が人気だそうである(ウソ)。そして復興への支援として東シベリアの液化天然ガス(LNG)提供の提案など友好的関係が全面に出て来る。4.21 付記事では,LNGプラント建設でガスプロム社と伊藤忠が協議したことを報じている。これ,その後どうなったのやら。
面白いのは,それと同時に福島原子力発電所の事故について,震災直後の 3.22 の時点で早くも,事故対応の「日本型官僚主義」を痛烈に批判しているところである:「福島第一原発の事故現場で日本側に助言を与えたロシアの核物理研究施設クルチャトフ研究所のアスモロフ副所長は21日付けのロシア紙イズベスチアとのインタビューで,意思決定に時間がかかりすぎる日本型の官僚主義が事故の処理を遅らせたと指摘,日本政府の対応に苦言を呈した。[ ... ] 『5分で済むような問題を,日本人は委員会をつくって延々と議論する。責任者を見つけるのは困難で,副大臣以下と話しても意味がない』と述べた。また,[ ... ] 『日本人は他人の助言をもらうのを恥だと感じている』と指摘。事故処理を指揮する責任者は一人にし,『省庁の本部ではなく,現場に常駐させなければならない』と強調した。副所長はチェルノブイリ事故の経験を踏まえ,福島原発の事故では『放射能による死者は一人も出ないと断言できる』と述べた」。いまになって思うと,アスモロフ副所長のようなプロの言うことをきちんと聴かなかった日本政府のおかげで,計画的避難を強いられた福島県周辺住民はお先真っ暗になってしまっている(そういえば,政府は耳の痛いことを述べる原子力専門家をクビにしましたね)。ロシアのマスコミの論調は日本政府が「レベル7」に引き上げたことに対しても,「政府の対応をこれ以上非難されないための政治的判断」(4.13 付)だと厳しい。これ,日本人が中国の高速鉄道事故対応に対してあげつらっているのに似ている。日本人は己を棚に上げるのがきわめて得意であるということがわかる。海外で日本の原発事故対応はこのように見られているという記事は,日本の大新聞ではまず読めない。4.8 付の記事では,福島第一原発の放射性物質を含む汚染水を「事前通告なしに」海に放出した日本側の対応に不信感を露にしている。日本外務省は4日に開始した汚染水放出を6日になってロシア側に伝えたそうである。日本では東北産農作物などへの風評被害がことさらに取上げられているけれども,ロシアの極東沿岸地方・日本海に面した海水浴客が原発事故の影響で「平年より50〜70%減少」し地元は困り果てている(7.26 記事)。このような日本に対する不信感を否応無しに植え付ける日本政府の行動は,なぜか日本のマスメディアは触れない。原発事故は日本人だけの問題ではないという観点がゼロなんである。自己診断でしか自分を見ようとしないこの行動様式が原発事故対応を決定的に誤らせているということが,ロシアの情報でよくわかる。
震災後二ヶ月を過ぎると「休戦」モードに終止符が打たれる。5.16 付記事は「『支援と領土は別』明確に」と題して,イワノフ副首相ら政府代表団による北方領土訪問を伝えている。その後,5.25 記事では,韓国,中国,ロシアが日本との領土問題に関して連携を模索している状況が報じられている。韓国国会議員が北方領土訪問したとのこと。日本の震災による弱体化につけ込んで,日本を共通敵としてロシアと結託しようとしているようである。この野郎! なのに日本政府外務省は何の手も打てずじまいのようである。「この野郎!」はいったい誰に対して発するべきか?
そんなこんなで,私は,外交関係のニュースについて,日本メディアの報道観点を基本的に信用しないことにしている。