早坂隆の最近出たジョーク集を二冊まとめて読んだ。『日本の戦時下のジョーク集』の満州事変・日中戦争篇と太平洋戦争篇。彼のジョーク集は結構売れているようである。さもありなん。
日本人はジョークの資質がないと言われることが多い。早坂は本書でそれを否定しているけれども,私が彼の『世界のジョーク集』や,ジャンナ・ドルゴポーロワが集めたロシアのアネクドート,ラビ・トケイヤーのユダヤ・ジョーク集などを読んだ後では,やはり日本人のジョークはレベルが低い。その 99% は地口であって,発想のダイナミックな切替えや知的ひらめきがまるで認められない。でも日本には芭蕉の俳諧のような人生にしみじみと貫入する笑いがある。
戦前・戦中も吉本興行が活躍していたというのは,それでも興味深い。落語界が漫才の台頭に危機感を覚えて時事ネタを取り込んだ新作を多数世に出したという話も,現代と同じではないか。日本人にはジョークというよりたくさんの低レベルな「お笑い」で憂さを晴らすのが似合っているのか。私には笑いの質でいえば落語のほうが圧倒的に高く,日本人の気品を表現している。
その「お笑い」の盛況ぶりを読んでいると,現代の日本も戦前・戦中の世の中とあまり変わらないと感じてしまう。一歩間違うと現在の日本でも,再びあの愚かな戦争に突っ走るかも知れないということである。「美しい日本」を標榜した若い宰相は,現代風にリセット辞任してしまったのだけど。強いストレスがもとで会社に来なくなってしまう若者と同じではないか。(話題とあんまり関係ありませんでした)
でもエンタツ/アチャコ,ミス・ワカナ/玉末一郎の漫才を見てみたい(ところでミス・ワカナのミスは miss. ではなく mistake のミスなんだとか。人生間違いました。このほうが図太い笑いと悲哀が混在していて,ジョークの精神が効いている)。低レベルの「お笑い」であろうが,吉本新喜劇や漫才が私は大好きである。レベルが低かろうが私と等身大であり,親しみがある。「美しい日本」より「面白い日本」のほうが断然共感を覚える。