青木逸平『旧字力,旧仮名力』

昨夜は,青木逸平著『旧字力,旧仮名力』について批判的なことを書いてしまった。しかし,本書はさすがに旧字旧仮名遣いを信奉する方の著述だけあって,自ら旧字旧仮名で書きたいと思うひとにとって,「実践的」という意味で有用であることは疑いない。是非お勧めする。旧字の解説では文字の成り立ちに触れ,当用漢字,常用漢字の流通で正しい姿がいかに歪められているかを述べているところなど,旧字旧仮名遣いを「カッコいい」と思う向きには,「さうだ,さうだ」と共感すること請け合いである。勉強になる。是非お勧めする。

まあ,世の中いろんなひとがいてもよいと思う。新字よりも旧字のほうが成り立ちが明確なので「覚えやすい」。横書きよりも縦書きのほうが,アラビア数字よりも漢数字のほうが — 青木がこう主張しているわけではありませんが —「分りやすい」。云々。ぷっと吹き出してしまうようなことをまじめに言うひとがいてもよいではないか。母国の伝統的国語習慣を心より愛していることはよいことである。

私も小説は縦書きで読みたいと切に思うが,いくら縦書きに愛着があるにせよ,仕事で設計レビューにおいてホワイトボードを前にして皆で議論するときには,スペックやらアルゴリズムやらを横書きで書かないわけにはいかない。論文は外国語,数式,プログラムコードとが混在するとなると横書きのほうが圧倒的に読みやすい。日本語というのは縦にも横にも,極論すると — 縦書き一行一文字で — 右から書いてもよい,そんな柔軟な書記構造をもっていてつくづく感心する。漢字あり,仮名あり,横文字あり,いろんなものをごった煮にできる包容力。私は日本語のそういう雑種性が好きなのである。