今日仕事を終え,帰ろうとビルを出ると,雨が降りしきっていた。
家路の途中に富士電工という小さな工場がある。前庭にはガラス張りの音楽室のような部屋が面しており,よくバレエの練習をしているのをみかける。その前にひともとの大きな桜の樹が立っており,いま花枝を広げている。この風雨にさらされて,桜の花びらが地一面に散りしいて,夜の底を白く浮かび上がらせていた。なぜか突然,モーツァルトの二十番のニ短調ピアノコンチェルトが聴きたくなった。
帰宅して早速,フリードリッヒ・グルダの独奏,クラウディオ・アバド指揮,ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の管弦楽によるレコードに針を落とした。暗闇のなかからさざめくように立ちのぼってくるあの悲劇的なテーマに久しぶりに耳を傾けた。夜に激しい風雨にさらされて散りしきる桜花のイメージを,確かにこの楽曲は連想させる。この盤の第一楽章のカデンツァは,ベートーヴェンの手になるもので,暗黒と煌めきの交錯するコンチェルトに相応しいドラマティックなものだ。
私は Deutsche Grammophon 西独輸入盤アナログレコードを昔から愛聴しているが,この録音は名演奏のひとつに数えられており,現在も CD で入手できる。
今年はモーツァルト生誕二百五十年だという。
F. グルダ (Pf), C. アバド (Dir),
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ユニバーサルクラシック (2001/10/24)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ユニバーサルクラシック (2001/10/24)